2014/10/28(火)06:31
水色の光が告げるもの~YA小説『ルチアさん』
ルチアさん
高楼 方子
『もうずいぶん昔のことです。』で始まる物語は、いつの事とも、どこの国とも限定していないお屋敷に住む二人の娘スゥとルウルウが主人公である。
出久根育さんの描く人物は、いつも、まっすぐ前を向いていない。体はここに在りながら、心は別の所を見ている。そんな人の目をしている。
たそがれ屋敷と呼ばれる一軒家に住むスゥとルウルウも、
やっぱりそんな人達の仲間。とはいえ、奥さまと、
非常に分かりやすいネーミングのふたりのお手伝いさん、
エルダ(Elder)さんとヤンガ(Younger)さんとの二人暮らしは、特に逃げ出したいほど
嫌というわけじゃない。ただ二人は、時折父が持って帰ってくる水色の玉に、 訳もなく惹かれていた。
そんな時三番目のお手伝いさんとしてやってきたルチアさんに、同じ輝きを見つけてしまった事から、平凡な日々に動きが生じる。
外国暮らしの父に対して、ルチアさんは隣町から通ってくる。だから玉の輝き は場所に拠るものではない。じゃあ一体、何なのか? ヒントはこれかもしれない。
屋敷の人々は、ルチアさんの前では、「昔ああしたかったのよ。」「本当はこうしたいのよ。」と
夢を語る。いつも心をどこかに忘れてきたような眼差しで、遠くを見ている奥様までも。
大人達ならば、大抵見当のつく答えを求めて、二人の姉妹は初めての町に出かけてゆく。
お人よしの二人は、ルチアさんの娘ボビーに手玉に取られてしまうが、それでもやっぱり
冒険は楽しくて、わくわくして。
後半姉妹の行く末は、『ナルニア国物語』の『さいごの戦い』を
思わせる。『ライオンと魔女』でアスランを裏切ったエドマンドが、最後までアスランを信じ続ける一方で、模範的少女だったスーザンは、「ナルニア」の事を単なる遊びとしか捉えなくなる。同じきょうだいでも袂を分かったペペンシーきょうだい同様、スウとルゥルゥも別の人生を歩む。
かつて同じ玉を求めた仲なのに、もう二人の見ているものは同じじゃない。
けれど最後にもう一つ話を付け加えた事で、子供時代の終わりというありきたりの寂寥から、この物語は救われる。
いくつになっても、外見がどんなに変わっても、人は心に輝くものを 持つことができる。そんなメッセージを感じたが、他の読者は水色の玉から何を受けとったのだろうか。読む人によっていろいろに感じ取る事のできる作品だと思う。
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