さて昨日の続き、最高級食材と言われている、鳩を捕まえるため
　　に出かけたてっちとわたし、もちろん頭の中はフランス料理一色
　　です。

　　自転車でえっちら、おっちらと、１時間ぐらいかけて小田原の城
　　址公園に到着しました。ところが日曜日、かなりの人出で、そん
　　な中で鳩を捕まえるのは至難の業です。

　　小さな子供を連れた家族連れが、鳩に餌をやっています。
　　子供が餌を投げるたびに群がる鳩たち。
　　じっと立っていると、わたし達のすぐそばまで鳩たちがやってき
　　ます。餌を食べるのに夢中で、手を伸ばせば届きそうな所までや
　　ってきます。

　　てっちとお互い顔を見合わせ、無言でお互いに合図を送ります。

　　（早くやれよ・・　おまえが言い出したんだろ・・
　　　おまえがやれよな・・）

　　こんな感じで、相手をせかしますが、人目が気になってなかなか
　　実行に移せません。
　　そんなこんなで、時間ばかりが過ぎていきます。

　　で面倒くさくなって、わたしが目の前に来た鳩に手を伸ばしまし
　　た。絶妙のタイミングで、ばっちりと思ったのですが、鳩のほう
　　が上手でした。手を伸ばすと、クモの子を散らすように逃げてし
　　まいます。

　　何回かやってみたのですが、どうしても捕まえることが出来ませ
　　んでした。それでてっちがもう帰るかと言い出したのです。
　　ところがわたしは、鳩料理よりも鳩を捕まえることに夢中になっ
　　て、いえ意地になっていました。

　　さらに粘ること数回。
　　やっぱり駄目だろうと思ったそのとき、わたしの手の中でもがく
　　鳩がいました。てっちのほうを見ると、びっくりしたような顔を
　　しています。

　　おい逃げるぞ！　とてっちにそう言われて、脱兎のごとくそこか
　　ら逃げ出しました。もちろん鳩はつかんだまま。
　　そうして無事我が家まで、連れ帰ってきたのです。

　　とりあえず二人で、鳩小屋の中に入り、今日の獲物を見定めます。
　　捕まえたはいいけど、これを捌くなんて、どうしたらいいのか分
　　かりません。いざ殺すとなると、人間躊躇するものです。

　　まあ大体、初めから殺すほどの勇気は無かったと思いますが。
　　中学生の若気のいたりですね。
　　それでも捕まえた以上は、何とかしなければいけないのです。
　　つまり、やめるかなんて、言えないのです。

　　てっちがわたしに、おいさっさとやれよ、と言ってきます。
　　こうして今考えてみると、てっち、なかなかの悪よのう～。

　　手に持っている鳩、やはり結構痩せていて、ああいうところで生
　　きていくのも大変なんだなと感じました。ところが、その手に何
　　か当たるんです。

　　骨にしては、ちょっと太いし、大体直接わたしの指に触れてきま
　　す。それで羽をかき分けて見てみると、胸のところに木片が刺さ
　　っていました。木片と書くと細いように思われるかもしれません
　　が、太さは２センチくらいで半円形のものです。

　　鳩の大きさから比べると、かなりの太さではないでしょうか。
　　ためしに引っ張ってみました。その木片と一緒に、鳩の皮膚が一
　　緒に引っ張られて、全然抜ける気配がありません。完全に一体化
　　しているようです。かなり長い期間刺さっていたのでしょう。

　　きっとこの木片のせいで、ろくに餌も食べれず、元気になれなか
　　ったのでしょう。だからわたしに簡単に捕まったのでしょう。
　　他の鳩みたいに機敏にはなれなかったんですね。

　　てっちにその木片を見せ、こりゃあかわいそうだよと言うと、
　　てっちもそうだなと言って、この鳩はわたし達に食べられてしま
　　うという最大の危機から脱出できたのでした。

　　こうしてこの鳩は、我が家の鳩たちと一緒に生きていくことにな
　　りました。毎朝一回の朝食付きです。

　　たまたま木片だったのですが、本当はやめる理由さえ付けばよか
　　ったのだと思います。



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