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山崎元のホンネの投資教室

2006年01月07日
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2005年10月7日


■推薦図書2 「なぜか日本人が知らなかった 新しい株の本」
 山口揚平(著) ランダムハウス講談社 (2005年7月刊)


 こちらは、過去に会計系のコンサルティング会社に勤めて、現在M&Aコンサルティングの会社に勤める著者が、仕事で使う企業評価のノウハウを個人向けに簡単にして説明してくれた本で、確かに、今までにないタイプの「新しい」株式投資の本だ。
 この本の中核をなす部分は、企業価値を評価して、これから負債を差し引いて、株主価値を求めて、これと株式時価総額を比べて(もちろん両方を一株当たりで評価してもいい)、割安なものを買おうという方法を明快に解説していることだ。
 方法を概説すると、先ず、営業利益の数字に一定の倍率を掛けて「事業価値」を求める。「一定の倍率」に関しては、ざっくりと割り切ってあるが、数字の根拠が述べられているので、期待リターンが違うケースや、従ってリスクに対する評価によって事業価値の評価に差をつけたい場合などに、修正が効くようになっている点がいい。フローの利益をストックとして評価する際の考え方の基礎として、割引現在価値の考え方からきちんと説明されている点も評価できる。
 次に、企業の財産価値を求めるのだが、これも「流動資産」と「流動負債」の数字を簡単に加工して流動部分の資産価値を求めて、これと固定資産の中の「投資その他の資産」の項目を足し合わせて、企業の「財産価値」を求める方法を示している。
 さらに、「企業価値=事業価値+財産価値」として、両者を足し合わせて、「企業価値」を求め、ここから借金を引いて「株主価値」が求められる。用語を並べると面倒に感じるかも知れないが、具体的な作業は案外簡単だ。
 経済学の企業金融の理論では、企業価値と株主価値を(当然だが)分けて論じるわけだが、たとえばライブドア問題の報道などを見ると、両者が混同して論じられていることが多くて、気持ちの悪い思いをしたものだが、本書のような基礎知識が共有されていると、このような混乱はなくなるのだろう。教育的にもよい本だ。
 この本の「財産価値」と「事業価値」の分け方と合計の仕方についても、先の本に対するような細かな批判的疑問を提示することができるのだが、計算の仕組みを明快に書いているので、「剰余利益」だの「リスク・プレミアム」だのといった概念が気になるようになったら、自分で修正すればいい(先の本にも言えることだ)。本書のように、具体的な方法を包み隠さず、理由と共に書いている本は、読者が自分の成長に合わせて読み直すことができる。
 こうして求めた、株主価値を発行株数で割った値(「真のBPS」と言える)と現実の株価の差が大きい(もちろん株価が低い方がいい!)銘柄を、「セーフティー・マージン」の大きい銘柄と考えて投資対象としてプラスに評価するのが本書の基本的な考え方だ。
 この骨組みを頭に入れるだけでも十分役に立つのだが、この他に、ビジネスそのものを評価する観点が簡潔に「価値の『源泉』を見抜くには?」(第4章)という章の中で述べられていて、この部分のできのよさもなかなかだ。
 また、著者は、たぶん投資というゲームをクールに捉えている合理的な人なのだろう。長期投資よりも短期に利益が実現する方がいいということを、多くの著者が陥りがちな「長期投資のドグマ」にハマらずに書いている(価値と価格の差が解消される期間は短い方がいいとはっきり書いている。ただ、「浪人生より現役生」というたとえは少しキツイかもしれない)。「増配」や「株主優待」は注目されるきっかけにはなり得るが、本来は株主のためになっていないという説明も的確だ。また「『後悔』と『プライド』が損を招く」などと、行動ファイナンスのスパイスも効いている。この本も1500円(税別)なのだが、これは、是非買って読むべき本だ。近刊という縛りを外して、全ての投資本の中でも良著として上位にランクされるだろう。
 しかし、株式投資の参考書としては大きな欠点ではないが、この優れた著者にして、「リスクと期待利回り」の説明で、外貨預金の期待リターンを外国通貨建ての利率と勘違いして、ハイリスク・ハイリターンの関係の中に並べて解説している。運用とはなかなか難しいものだ。


■二冊の共通点

 最後に、二冊の共通点について触れておこう。それは、どちらの著者も、会計の知識を踏まえて株式投資について書いていることだ。会計的な見方ができるようになると、会社や株価を冷静に見られるようになるし、自分の投資に関しても見通しがよくなる。筆者は、大学時代に経済学部にいて、「会計」とか「統計」といった科目は、当時地味に感じられて、興味を覚えなかったのだが、社会に出てみると、これらの“実用科目”が実は本当に役に立つ知識なのだった、ということを知った(ちょっと後悔もした)。
 学生の読者がいらっしゃったら、是非、会計はきちんと勉強しておくように、と申し上げておこう。
 ところで、株式投資ということで考えると、両著作とも、ポートフォリオの作り方が出ていないのが少し物足りないところだし、読者が投資を実践する場合には、工夫のいるところだろう。適切にポートフォリオを作ることができれば、両著作のアイデアが効率よく生かされることになる。
 また、二冊とも投資のスタイルとしては、バリュー投資系の本だが、2000年のネットバブル崩壊以来、バリュー投資が復活から優勢の流れが長く続いており、バリュー系の投資手法が「上手く行った」という類のデータは、少し割り引いて評価する必要があることも付記しておこう。もちろん、両著作の価値には関係ないが、その他の本で、「実際にこんなに儲かったのだからよい方法だ!」ということを根拠にしている本があれば、少々注意して評価する方がいい。
 

以上






最終更新日  2006年02月10日 01時53分04秒
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