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![]() この「グロテスク」で泉鏡花文学賞を受賞。 私は2000年の「東電OL殺人事件」(佐野眞一著)を読んでいる。 それは世評にも関わらず、やや不満であった。男社会の論理や倫理に 則り、被害者の偽悪的行為に同情こそすれ、真に批判する内的動機をも っていないものであった。 つまり被害者とおなじ娼婦であり、男社会に圧伏される女という視点が 決定的に欠けていたのである。 桐野はまさにその欠陥を埋めて余りある作品を提示した。 「娼婦になりたいと思ったことのある女は、大勢いるはずだ。自分に商品 価値があるのなら、せめて高いうちに売って金を儲けたいと考える者。 性なんて何の意味もないのだということを、自分の肉体で確かめたい者。 自分なんかちっぽけでつまらない存在だと卑下するあまり、男の役に立つ ことで自己を確認したいと思う者。荒々しい自己破壊衝動に駈られる者。 あるいは、人助けの精神。その理由は女の数だけ存在するだろうが、私は どれでもなかった。(略)自分は根っからの淫らな女だから娼婦になった のだ」という烈しい社会批判がある。これは男には理解できない。 「東電OL殺人事件」は多くの謎が隠されている。 ネパール人の男が強盗殺人容疑で逮捕されたが怪文書には真犯人は別にいる と告発している。 O元首相の息子で東電時代に被害者と同じ職場にいてシークレットワークに 就いていたという。この過去が「精神に異常をきたした」彼女の口から洩れる ことをおそれた関係者が事件を工作したといわれる。 あくまでも怪文書だから証拠に基づいているわけではない。 マリリン・モンローのJFケネディとの醜聞もモンローの睡眠薬自殺という 形で決着がはかられた。権力の見事な偽装というしかない。 裏にダーティワークを引き受ける存在がある。 「東電OL殺人事件」も被害者の特異な性格や精神異常に筋がそれつつある。 こうなると相当複雑な解明分析が求められる。 桐野氏はさまざまな方向から、さまざまな人物の視点から核心に迫る。 なかなかしたたかである。彼女の怨念に迫ろうとしている。 「いけにえ」にされた女の復讐のために。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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