このところ、だいぶ暑くなってきました。
とは言え、怪談話にはちょっと早いのですが、「室生犀星集 童子 文豪怪談傑作選」を読みました。十数編からなる奇譚集で、怪談というより人間の心の深遠を覗くような恐ろしさ。。。ゾクッ!とする作品ばかりです。
今回は作品の中から「あじゃり」をご紹介します。
「あじゃり」とはサンスクリット語で「規範」という意味で、戒律を守る規範となり、法を教え施す僧侶のことだそうです。
物語は下野(しもつけ)の村に住む菊世という女が、禅師に語るかたちで進みます。
<ここからネタバレ>
山に住む「あじゃり」は村人に慕われる立派な住職でしたが、美しい童子を弟子としてから少しづつおかしくなります。やがて、童子が病に倒れ亡くなってしまっても、死を受け入れられず、ずっと亡骸にすがりつき、おそらく食べてしまった。やがて、あじゃりも死ぬが成仏できないでいる。最後に禅師の禅杖の一振りで成仏する。
(禅杖:座禅のとき、修行者を覚醒させるために突く棒)
物語の抜粋から流れを追ってみます。勝手に流れに[題名]つけました。。。
[高僧と平和な村]
阿闍利さまがこの村をお廻りなされたあとは、村の中も何となく穏やかで人々は機嫌がよく、子供らも泣かずに静かでございます。
[童子の死:人鬼]
「禅師さま、人間ほどわからぬものはございません。そのような阿闍利さまのお人がらが、にわかに変わってしまったのでございます。」
阿闍利さまはわたくしの方をふり返られましたが、その眼つきは山樵の申したように人間の眼つきのやさしさを持っていません。 ---その姿は犬や狼のような身がまえでございましたから、わたくしは身をひきながら、---
それから今日まで村人は山へは近づこうとはいたしません。人さえ見ればそれに飛びかかり誰いうとなく人鬼だということをいい合いました。人間はどうかわるか分りません。 --- 村人の話では、童子の可愛さのあまり、その肉を食うたのだと申しております。
[阿闍利成仏]
一部始終を聞いた禅師が、山の寺に立ち寄ってきた話をして、物語は終わります。
『女ごよ、もう阿闍利は亡くなっている。』
禅師はそういって高々と笑い出した。菊世は始めて仏の間に灯をともした。
注:緑字は本からの抜粋
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実はこの話は「雨月物語」の「青頭巾」という話のリメイクであり、室生犀星は阿闍利にフォーカスし、「雨月物語」では主役級であった禅師(快庵禅師)が、ここでは最後に突然出現し、阿闍利を成仏させてお仕舞になるところに少々違和感が。。。しかし、「雨月物語」とは異なり語りを女にすることで、柔らかな物言いがより不気味さを引き立たせているような気がします。
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