JEWEL
日記・グルメ・小説のこと711
読書・TV・映画記録2699
連載小説:Ti Amo115
連載小説:VALENTI151
連載小説:茨の家43
連載小説:翠の光34
連載小説:双つの鏡219
完結済小説:桜人70
完結済小説:白昼夢57
完結済小説:炎の月160
完結済小説:月光花401
完結済小説:金襴の蝶68
完結済小説:鬼と胡蝶26
完結済小説:暁の鳳凰84
完結済小説:金魚花火170
完結済小説:狼と少年46
完結済小説:翡翠の君56
完結済小説:胡蝶の唄40
完結済小説:琥珀の血脈137
完結済小説:螺旋の果て246
完結済小説:紅き月の標221
火宵の月 二次創作小説7
連載小説:蒼き炎(ほむら)60
連載小説:茨~Rose~姫87
完結済小説:黒衣の貴婦人103
完結済小説:lunatic tears290
完結済小説:わたしの彼は・・73
連載小説:蒼き天使の子守唄63
連載小説:麗しき狼たちの夜221
完結済小説:金の狼 紅の天使91
完結済小説:孤高の皇子と歌姫154
完結済小説:愛の欠片を探して140
完結済小説:最後のひとしずく46
連載小説:蒼の騎士 紫紺の姫君54
完結済小説:金の鐘を鳴らして35
連載小説:紅蓮の涙~鬼姫物語~152
連載小説:狼たちの歌 淡き蝶の夢15
薄桜鬼 腐向け二次創作小説:鬼嫁物語8
薔薇王転生パラレル小説 巡る星の果て20
完結済小説:玻璃(はり)の中で95
完結済小説:宿命の皇子 暁の紋章262
完結済小説:美しい二人~修羅の枷~64
完結済小説:碧き炎(ほむら)を抱いて125
連載小説:皇女、その名はアレクサンドラ63
完結済小説:蒼―lovers―玉(サファイア)300
完結済小説:白銀之華(しのがねのはな)202
完結済小説:薔薇と十字架~2人の天使~135
完結済小説:儚き世界の調べ~幼狐の末裔~172
天上の愛 地上の恋 二次創作小説:時の螺旋7
進撃の巨人 腐向け二次創作小説:一輪花70
天上の愛 地上の恋 二次創作小説:蒼き翼11
薄桜鬼 平安パラレル二次創作小説:鬼の寵妃10
薄桜鬼 花街パラレル 二次創作小説:竜胆と桜10
火宵の月 マフィアパラレル二次創作小説:愛の華1
薄桜鬼 現代パラレル二次創作小説:誠食堂ものがたり8
薄桜鬼 和風ファンタジー二次創作小説:淡雪の如く6
火宵の月腐向け転生パラレル二次創作小説:月と太陽8
火宵の月 人魚パラレル二次創作小説:蒼き血の契り0
黒執事 火宵の月パラレル二次創作小説:愛しの蒼玉1
天上の愛 地上の恋 昼ドラパラレル二次創作小説:秘密10
黒執事 現代転生パラレル二次創作小説:君って・・3
FLESH&BLOOD 二次創作小説:Rewrite The Stars6
PEACEMAKER鐵 二次創作小説:幸せのクローバー9
黒執事 韓流時代劇風パラレル二次創作小説:碧の花嫁4
火宵の月 BLOOD+パラレル二次創作小説:炎の月の子守唄1
火宵の月 芸能界転生パラレル二次創作小説:愛の華、咲く頃2
火宵の月 ハーレクインパラレル二次創作小説:運命の花嫁0
火宵の月 帝国オメガバースパラレル二次創作小説:炎の后0
黒執事 フィギュアスケートパラレル二次創作小説:満天5
薄桜鬼 昼ドラオメガバースパラレル二次創作小説:羅刹の檻10
黒執事 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:碧の騎士2
薄桜鬼ハリポタパラレル二次創作小説:その愛は、魔法にも似て5
薄桜鬼 現代妖パラレル二次創作小説:幸せを呼ぶクッキー8
黒執事 転生パラレル二次創作小説:あなたに出会わなければ5
薄桜鬼 現代ハーレクインパラレル二次創作小説:甘い恋の魔法7
薄桜鬼異民族ファンタジー風パラレル二次創作小説:贄の花嫁12
火宵の月 現代転生パラレル二次創作小説:幸せの魔法をあなたに3
火宵の月 転生オメガバースパラレル 二次創作小説:その花の名は10
黒執事 異民族ファンタジーパラレル二次創作小説:海の花嫁1
PEACEMAKER鐵 韓流時代劇風パラレル二次創作小説:蒼い華14
YOI火宵の月パロ二次創作小説:蒼き月は真紅の太陽の愛を乞う2
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の巫女0
火宵の月 韓流時代劇ファンタジーパラレル 二次創作小説:華夜18
火宵の月 昼ドラ大奥風パラレル二次創作小説:茨の海に咲く華2
火宵の月 転生航空風パラレル二次創作小説:青い龍の背に乗って2
火宵の月×呪術廻戦 クロスオーバーパラレル二次創作小説:踊1
火宵の月×薔薇王の葬列 クロスオーバー二次創作小説:薔薇と月0
金カム×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:優しい炎0
火宵の月×魔道祖師 クロスオーバー二次創作小説:椿と白木蓮0
薔薇王韓流時代劇パラレル 二次創作小説:白い華、紅い月10
火宵の月 遊郭転生昼ドラパラレル二次創作小説:不死鳥の花嫁1
火宵の月 現代転生パラレル二次創作小説:それを愛と呼ぶなら1
FLESH&BLOOD 千と千尋の神隠しパラレル二次創作小説:天津風5
鬼滅の刃×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:麗しき華1
薄桜鬼腐向け西洋風ファンタジーパラレル二次創作小説:瓦礫の聖母13
薄桜鬼 ハーレクイン風昼ドラパラレル 二次小説:紫の瞳の人魚姫20
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:黄金の楽園0
火宵の月 昼ドラ転生パラレル二次創作小説:Ti Amo~愛の軌跡~0
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:鳳凰の系譜0
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:鳥籠の花嫁0
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:蒼き竜の花嫁0
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:月の国、炎の国1
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:碧き竜と炎の姫君0
コナン×薄桜鬼クロスオーバー二次創作小説:土方さんと安室さん6
薄桜鬼×火宵の月 平安パラレルクロスオーバー二次創作小説:火喰鳥6
ツイステ×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:闇の鏡と陰陽師4
陰陽師×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:君は僕に似ている2
黒執事×ツイステ 現代パラレルクロスオーバー二次創作小説:戀セヨ人魚2
黒執事×薔薇王中世パラレルクロスオーバー二次創作小説:薔薇と駒鳥27
火宵の月 転生昼ドラパラレル二次創作小説:それは、ワルツのように1
薄桜鬼×刀剣乱舞 腐向けクロスオーバー二次創作小説:輪廻の砂時計9
F&B×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:海賊と陰陽師1
火宵の月×薄桜鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:想いを繋ぐ紅玉54
バチ官腐向け時代物パラレル二次創作小説:運命の花嫁~Famme Fatale~6
火宵の月 昼ドラハーレクイン風ファンタジーパラレル二次創作小説:夢の華0
火宵の月 現代ファンタジーパラレル二次創作小説:朧月の祈り~progress~1
火宵の月 現代転生パラレル二次創作小説:ガラスの靴なんて、いらない2
黒執事×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:悪魔と陰陽師1
火宵の月 吸血鬼オメガバースパラレル二次創作小説:炎の中に咲く華1
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:黎明を告げる巫女0
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:光の皇子闇の娘0
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:闇の巫女炎の神子0
火宵の月 戦国風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:泥中に咲く1
火宵の月 和風ファンタジーパラレル二次創作小説:紅の花嫁~妖狐異譚~2
火宵の月 地獄先生ぬ~べ~パラレル二次創作小説:誰かの心臓になれたなら2
PEACEMEKER鐵 ファンタジーパラレル二次創作小説:勿忘草が咲く丘で8
FLESH&BLOOD ハーレクイン風パラレル二次創作小説:翠の瞳に恋して20
天官賜福×火宵の月 旅館昼ドラクロスオーバーパラレル二次創作小説:炎の宿1
火宵の月 異世界ハーレクインファンタジーパラレル二次創作小説:花びらの轍0
火宵の月 異世界ファンタジーロマンスパラレル二次創作小説:月下の恋人達1
火宵の月 異世界軍事風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:奈落の花1
FLESH&BLOOD ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の花嫁と金髪の悪魔6
名探偵コナン腐向け火宵の月パラレル二次創作小説:蒼き焔~運命の恋~1
火宵の月 千と千尋の神隠し風パラレル二次創作小説:われてもすえに・・0
薄桜鬼腐向け転生刑事パラレル二次創作小説 :警視庁の姫!!~螺旋の輪廻~15
FLESH&BLOOD ハーレクイロマンスパラレル二次創作小説:愛の炎に抱かれて10
PEACEMAKER鐵 オメガバースパラレル二次創作小説:愛しい人へ、ありがとう8
FLESH&BLOOD 現代転生パラレル二次創作小説:◇マリーゴールドに恋して◇2
火宵の月×天愛クロスオーバーパラレル二次創作小説:翼がなくてもーvestigeー0
黒執事 昼ドラ風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:君の神様になりたい4
薄桜鬼腐向け転生愛憎劇パラレル二次創作小説:鬼哭琴抄(きこくきんしょう)10
火宵の月×ハリー・ポッタークロスオーバーパラレル二次創作小説:闇を照らす光0
火宵の月 現代転生フィギュアスケートパラレル二次創作小説:もう一度、始めよう1
火宵の月 異世界ハーレクインファンタジーパラレル二次創作小説:愛の螺旋の果て0
火宵の月 異世界ファンタジーハーレクイン風パラレル二次創作小説:愛の名の下に0
火宵の月 和風転生シンデレラファンタジーパラレル二次創作小説:炎の月に抱かれて1
火宵の月×刀剣乱舞転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:たゆたえども沈まず1
相棒×名探偵コナン×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:名探偵と陰陽師0
火宵の月×薄桜鬼 和風ファンタジークロスオーバーパラレル二次創作小説:百合と鳳凰2
火宵の月 異世界ファンタジーハーレクイン風昼ドラパラレル二次創作小説:砂塵の彼方0
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表紙素材は、このはな様からお借りしました。「黒執事」の二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。シエルが両性具有です、苦手な方はご注意ください。「助けて・・」少女は、苦しそうに呻きながら、シエルに向かって手を伸ばしたが、その手も酷く焼け爛れていた。「シエル、諦めなさい。」「でも・・」「わたし達には、どうする事も出来ません。」 少女は、夜明け前に死んだ。「シエル、いい加減泣き止みなさい。」「でも・・」「どんなに泣いても、死んだ人は戻って来ませんよ。」 セバスチャンはそう言うと、診療所の中へと戻っていってしまった。 あの少女は、生きていた。 それなのに、理不尽に命を奪われてしまった。(これが、戦争なのか・・) 全ての人を、救う事は出来ない。 ならば、自分に出来る事をしよう。 シエルは涙を手の甲で乱暴に拭うと、診療所の中へと戻った。「シエル、もう大丈夫なのですか?」「あぁ。」「もう皆さん落ち着いたようですし、わたし達も休みましょう。」「お休み。」 シエルは泥のように眠った。「おはようございます、シエル。」「ん・・」「朝ごはんが出来ましたよ。」 そう言ってセバスチャンに連れられて台所へと向かったシエルが見たものは、白米の小さな塩むすびだった。「これは?」「朝早くにお米の配給があったので、作ってみました。」「頂きます・・」 その塩むすびは、美味しかった。 その日を境に、シエルは滅多な事では泣かなくなった。 死と常に隣り合わせの日々の中で、涙を流す時間すら惜しいと思ったからだ。 実際、空襲は連日あり、配給があった米は徐々にその量が減り、それに比例するかのように書籍や文房具類、医薬品などが不足していった。「これが、一日分の食事です。」 ある日、そう言ってセバスチャンがシエルに渡したのは、十粒の大豆だった。「そうか。」「シエル、今日は大事な話があるので、早く帰って来てくださいね。」「わかった。行って来ます。」「行ってらっしゃい。」 セバスチャンは玄関先でシエルを笑顔で見送った後、診療所の中へと戻って行った。 事務机の上に置かれた手紙を見たセバスチャンは、それに目を通すと、火鉢の上に置いた。 それはたちまち灰となった。(シエルには・・坊ちゃんには決してこの事は知られてはならない・・) 昼休み、シエルは朝セバスチャンから貰った十粒の大豆をハンカチの中から出し、一粒口に放り込んで良く噛んだ後、水を飲んで空腹を満たした。「あ~、毎日空襲ばかりで嫌になる。」「毎日寝不足になるわ。」 シエルが少し離れた所で女学生達が話しているのを聞いていると、郵便配達人が彼女達の元へとやって来た。「佐伯静子さんですね?」「あ、はい・・」「お手紙が届いています。」 女学生達の一人が郵便配達人から一通の手紙を受け取った後、彼女は突然泣き崩れた。「どうしたの?」「彼が・・」 その手紙は、彼女の恋人の死を知らせるものだった。「ただいま。」「お帰りなさい、シエル。今日はご馳走ですよ。」「ご馳走?」 シエルがセバスチャンと共に居間に入ると、そこには赤飯と野菜の味噌汁、そして鯛の塩焼きが食卓の上に並べられていた。「どうしたんだ、これ?」「知り合いの方が、調達して下さったのですよ。さぁ、冷めない内に頂きましょう。」「あぁ・・」 シエルは、セバスチャンの様子が少しおかしい事に気づいた。「頂きます。」 夕食の後、シエルはセバスチャンに呼ばれて彼の自室へと向かうと、彼は床に正座してシエルを待っていた。「どうした、そんなにかしこまって?」「シエル、わたしに赤紙が来ました。」「赤紙・・」「これを。」 セバスチャンがそう言ってシエルに手渡したのは、金の懐中時計だった。「父の形見です。これをわたしだと思って、大切に・・」「嫌だ!」「坊ちゃん?」「そんな言葉、お前はこれから死に行くと言っているようなものじゃないか!お前が、こんな物の代わりになるもんか!」 シエルはそう叫ぶと、セバスチャンに抱きついた。「必ず生きて僕の元に帰って来い!僕を独りにするなんて、許さないからな!」「あなたという方は、“昔から”わがままで、放っておけない方でしたが、それは“今でも”変わりませんね。」 セバスチャンはそう言うと、シエルの唇を塞いだ。「必ず、生きてあなたの元へ帰ります。約束します。」「あぁ。」 シエルとセバスチャンは、セバスチャンが出征する数日後まで、共に過ごした。「シエル、もしわたしが死んだら、どうしますか?」「お前の後を追って死んだりなんてしないぞ。」「・・あなたなら、そう言うと思っていましたよ。」 セバスチャンの出征前夜、セバスチャンはそう言うとシエルを抱いた。 そして、セバスチャンが出征する日が来た。 彼を見送る為、地域の婦人会の女性達が千人針をセバスチャンに贈り、駅で立派な幟を振って盛大に彼を見送った。「万歳!」「万歳!」 セバスチャンは汽車に乗り込んだ後、シエルの姿を捜したが、シエルは何処にも居なかった。 シエルは、敢えて元気よく振る舞って、別れの涙を自分の前で流したくないから、ここに来ないのだろう―セバスチャンがそう思っていると、盛大に見送りする人々から少し離れたところで、自分を見つめるシエルとセバスチャンは目が合った。『帰って来い。』 唇だけでそう自分に告げたシエルに、セバスチャンは微笑んだ。(必ず、あなたの元に帰ります。だから、その日まで・・わたしが帰って来るまで、あなたもどうか死なないでください、シエル。) 汽車の汽笛が高らかに鳴り、汽車が静かにホームから離れ、やがてそれはトンネルの中へと消えていった。(セバスチャン・・) シエルは、そっとハンカチに包んだ懐中時計を握り締め、駅から去った。 診療所へと戻ろうとしたシエルは、その前に一人の男が立っている事に気づいた。「おい、そこで何をしている?」にほんブログ村
2024.03.08
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表紙素材は、このはな様からお借りしました。「黒執事」の二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。シエルが両性具有です、苦手な方はご注意ください。 シエルの右足の骨折は、一月経った頃には完治した。「ごめん下さい。」「女将さん、わざわざこちらにいらしてくれて、ありがとうございます。」「いいえ。こちらこそ、うちのシエルがお世話になりました。今日は、この子の荷物を持って来ただけですよ。」 山田旅館の女将・静子は、そう言うとシエルの私物が入った風呂敷包みをセバスチャンに手渡した。「伯母様、僕は・・」「セバスチャンの言う事をちゃんと聞くんだよ、いいね?」「はい・・」 静子は、シエルに背を向け、診療所から出て行った。 こうして、シエルはセバスチャンと共に暮らす事になった。「坊ちゃん、おはようございます。」「おはよう、セバスチャン。」 シエルは診療所の奥にある台所へ向かうと、すいとんを作った。「坊ちゃんが料理を作るなんて、珍しいですね。」「あの家に居たら、碌に食事もとれなかったからな。すいとんが作れるだけマシだ。」「そうですね。それよりも今日、お米の配給がありますから、行って来ますね。」「わかった。」 セバスチャンが配給に行った後、シエルは縫製工場へと向かった。「シエル~!」 昼休み、シエルが工場の隅で休憩を取っていると、そこへ白衣の裾を翻しながら自転車でこちらに向かって来るセバスチャンの姿に気づいた。「セバスチャン、どうして・・」「お弁当作ったので、どうぞ。」「あ、ありがとう・・」 セバスチャンから渡された弁当箱に入っていたのは、白米の上に梅干しが乗っているだけのものだった。 だが、毎日稗や粟ばかり食べていたシエルにとって、それはご馳走そのものだった。「シエルさん、ちょっと。」 昼食の後、シエルが持ち場に戻ろうとした時、シエルは数人の女学生達に工場の裏へと連れて行かれた。「さっきの方、あなたとどのような関係の方なの?」「セバスチャンとは、ただの同居人で・・」「嘘よ、ただの同居人に対して、あんなに優しい笑顔を浮かべる訳がないわ!」「そうよ、年端もいかない癖に男を誘惑するなんて、ふしだらね!」 恋愛に疎いシエルは、最初彼女達が話している内容が良く解らなかった。 だが彼女達の顔を見ると、セバスチャンと一緒に暮らしている自分に彼女達が嫉妬している事に気づいた。(下らない・・)「ちょっと、何笑っているのよ!?」「いえ、話はそれだけですか?話がもう終わったのなら帰ります。」 工場を出たシエルが診療所へと帰ると、セバスチャンが何処か疲れたような顔をして診察室の椅子に座っていた。「ただいま。」「シエル、お帰りなさい。」「疲れているようだが、何かあったのか?」「えぇ、実は・・」 セバスチャンは、シエルに昼間起きた事を話した。「先生、助けて下さい!」「どうなさったのです?」「胸が・・苦しくて・・」 シエルに弁当を届け、診療所へと戻ると、その前には一人の女性が蹲っていた。「そうですか、では中へ・・」「胸をさすってくださるだけでもいいのです。」 女性の言葉を聞いたセバスチャンは、彼女の様子に違和感を抱いた。 ふと周りを見渡すと、近くの木に女性の連れと思しき男が立っていた。「申し訳ありませんが、わたしではあなたのお力になれません。」 セバスチャンがそう言って女性を見ると、彼女は舌打ちして何処かへと行ってしまった。「美人局に引っかかりそうになるとは、お前少し弱くなったな?」「おや、そうでしょうか?」 セバスチャンはシエルを自分の方へと抱き寄せると、シエルの唇を塞いだ。「やめろ・・」「そう言っても、まんざらではないでしょう?」 セバスチャンはシエルの唇を塞ぎながら、シエルの下半身を触り始めた。「んっ、やぁっ・・」 シエルは身を捩って暴れたが、セバスチャンの逞しい身体はビクともしなかった。「今すぐ、楽にしてさしあげますね。」 シエルはセバスチャンの愛撫によって絶頂に達した。「坊ちゃん、起きて下さい。」「ん・・」 シエルが起きると、そこは布団の中だった。 いつの間にかブラウスとモンペから、浴衣に着替えさせられていた。「今、何時だ?」「午後八時ですね。」「はぁっ!?」「最近お疲れのようですし、ゆっくり休めて良かったじゃないですか。」「お前なぁ・・」 シエルがそう言って溜息を吐いた時、外から誰かが診察所の扉を激しく叩く音がした。「先生、助けて下さい!うちの子が熱を出して・・」「娘さんを診察台に寝かせて下さい。」 セバスチャンは少女の父親に指示を出すと、無駄のない動きで少女を診察した。「ただの風邪ですね。風邪薬を出しておきますから、安心して下さい。」「ありがとうございました、先生!」 その様子を奥の部屋から見ていたシエルは、翌日セバスチャンにある事を話した。「診療所の手伝いをしたい?」「僕には何も出来ないが、ここに置いて貰っている限り、何かお前の力になりたいんだ。」「わかりました。では、今日からわたしがあなたを厳しく指導致しますので、覚悟していて下さい。」 セバスチャンはそう言うと、シエルに微笑んだ。 脅しかと思ったが、セバスチャンはその日からシエルに厳しく指導した。「包帯の巻き方が遅いですよ!こんな状態では手当てに半日もかかってしまいますよ!」「うるさい、わかっている・・」「ならば、口答えするより手を動かしなさい!」 日が暮れた頃には、シエルはクタクタになっていた。「この程度で疲れるとは、情けないですね。」「うるさい・・」「あなたが言い出したんですよ?」 シエルとセバスチャンがそんな事を言い合っていると、空襲警報が鳴り響いた。「早く、防空壕へ!」「わかった!」 診療所は焼けなかったが、空襲で負傷した人々が次々と診療所に運ばれて来た。「シエル、向こうを頼みます。」「わかった!」 シエルが怪我人の手当てをしていると、微かに自分を呼ぶ声が聞こえて来たので振り向くと、そこに昨夜セバスチャンが診察した少女の姿がある事に気づいた。 彼女の上半身は、酷く焼けただれていた。にほんブログ村
2024.02.06
表紙素材は、このはな様からお借りしました。「黒執事」の二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。シエルが両性具有です、苦手な方はご注意ください。―坊ちゃん、お目覚めの時間ですよ。 誰かが、自分の耳元で優しく囁く声。 目を開けると、そこには何の変哲もない自分の部屋。「いつまで寝ているんだい!」「すいません・・」「まったく、義姉さんは何だってこんな穀潰しを・・」 ブツブツと小声で自分の陰口を叩く遠縁の伯母の声を背に受けながら、シエルは家から出て行った。―ほら、あれ・・―山田さんのところの・・ 学校へと向かう道すがら、通行人達が好奇の視線をシエルに送った。 三年前、両親と双子の兄を交通事故で亡くし、シエルは、遠縁の親族の元に引き取られた。 華族の令嬢として何不自由なく生きていたシエルは、今の家では使用人同然の生活を送っている。 唯一の救いは、伯母の“お情け”で学校に通わせて貰っている事だった。 学校といっても、シエルが入学した時に戦争が始まり、授業らしい授業は何もなかった。「鬼っ子!」「早くこの町から出て行け!」家でも学校でも、シエルは独りだった。少し青みがかったダークシルバーの髪、雪のように白い肌、紫と蒼い瞳を持ったシエルは、周囲から浮いていた。病弱な上に良く熱を出して寝込んでいたシエルは、勤労奉仕も満足に出来ない所為で同級生達から疎まれていた。(僕は、独りだ。)―坊ちゃん。風に乗って、懐かしい声が聞こえて来た。あれは、一体誰の声なのだろう。何処かで、聞いたことがあるような声。「おいそこ、手が止まっているぞ!」「す、すいません・・」「全く、この穀潰しが・・」 縫製工場での勤務を終えたシエルは、額の汗を拭いながら、工場から家へと向かった。 すると、上空で轟音が響き、空襲警報のサイレンが鳴り響いた。「敵機襲来、待避~!」 人々の悲鳴や怒号、そして機銃掃射の銃声が響いた。 防空壕に逃げ込もうとしたシエルだったが、そこは既に人がひしめいていて入れなかった。 逃げ場をなくしたシエルは、近くの木の下に隠れた。 その直後、バリバリという音と共に、銃弾の雨が容赦なく降り注いだ。 シエルが両手で耳を塞ぎ、身体を丸めていると、誰かが自分を抱き寄せる感覚がした。―坊ちゃん。「あぁ、やっと見つけましたよ、坊っちゃん。」 俯いていた顔をシエルが上げると、そこには一人の青年の姿があった。 射干玉のような艶やかな黒髪、美しい紅茶色の瞳をした青年は、シエルを見て優しく微笑んだ。「セバスチャン・・」 シエルは、そう言うと気を失った。「傷は浅いですね。銃弾が後数センチずれていたら、死んでいましたね。」 シエルが目を開けると、そこは診療所と思しきベッドの上だった。「ん・・」「目が覚めましたか?」「ここは?」「遠縁の伯父が経営している診療所ですよ。あなたは怪我をしていたので、こちらに運びました。」「ありがとうございます。」 シエルが青年に礼を言ってベッドから起き上がろうとすると、右足に鋭い痛みが走った。「まだ動いてはいけませんよ。あなたはあの時、右足を骨折していたのですよ。ここで暫く休んでいなさい。」 青年はそう言うと、シエルに微笑んだ。―坊ちゃん。「あなた、お名前は?」「シエル・・シエル=ファントムハイヴ・・」「確か、山田旅館に引き取られた子ですね?わたしは、セバスチャン=ミカエリス。」 その名を聞いた時、シエルの目から自然と涙が流れていた。(あぁ、やっと会えた・・) シエルが溢れ出る涙を必死に手の甲で拭おうとした時、青年がそっとレースのハンカチでシエルの涙を拭ってくれた。「泣かないで、坊っちゃん。こうしてまた、会えたのですから。」「あぁ、そうだな・・」 シエルとセバスチャンは、暫く抱き合っていた。「セバスチャンは、どうしてこの町に?」「伯父が亡くなりましてね。遺言状にこの診療所をわたしに譲るとあったので、東京の病院を辞めてこの町に来たのですよ。」「そうか・・」「坊ちゃん・・もし良ければ、一緒に暮らしませんか?」「え・・」「今すぐ、という訳にはいきませんがね。今は、足の怪我を治して下さいね。」「わかった。」 こうして、シエルとセバスチャンの、奇妙な同居生活が始まった。「へぇ、あの子がねぇ・・」「どうしますか、女将さん?」「別にいいんじゃないの、あの子が向こうで暮らしたいって言えば、勝手に暮らせばいいのよ。」にほんブログ村