JEWEL
日記・グルメ・小説のこと711
読書・TV・映画記録2699
連載小説:Ti Amo115
連載小説:VALENTI151
連載小説:茨の家43
連載小説:翠の光34
連載小説:双つの鏡219
完結済小説:桜人70
完結済小説:白昼夢57
完結済小説:炎の月160
完結済小説:月光花401
完結済小説:金襴の蝶68
完結済小説:鬼と胡蝶26
完結済小説:暁の鳳凰84
完結済小説:金魚花火170
完結済小説:狼と少年46
完結済小説:翡翠の君56
完結済小説:胡蝶の唄40
完結済小説:琥珀の血脈137
完結済小説:螺旋の果て246
完結済小説:紅き月の標221
火宵の月 二次創作小説7
連載小説:蒼き炎(ほむら)60
連載小説:茨~Rose~姫87
完結済小説:黒衣の貴婦人103
完結済小説:lunatic tears290
完結済小説:わたしの彼は・・73
連載小説:蒼き天使の子守唄63
連載小説:麗しき狼たちの夜221
完結済小説:金の狼 紅の天使91
完結済小説:孤高の皇子と歌姫154
完結済小説:愛の欠片を探して140
完結済小説:最後のひとしずく46
連載小説:蒼の騎士 紫紺の姫君54
完結済小説:金の鐘を鳴らして35
連載小説:紅蓮の涙~鬼姫物語~152
連載小説:狼たちの歌 淡き蝶の夢15
薄桜鬼 腐向け二次創作小説:鬼嫁物語8
薔薇王転生パラレル小説 巡る星の果て20
完結済小説:玻璃(はり)の中で95
完結済小説:宿命の皇子 暁の紋章262
完結済小説:美しい二人~修羅の枷~64
完結済小説:碧き炎(ほむら)を抱いて125
連載小説:皇女、その名はアレクサンドラ63
完結済小説:蒼―lovers―玉(サファイア)300
完結済小説:白銀之華(しのがねのはな)202
完結済小説:薔薇と十字架~2人の天使~135
完結済小説:儚き世界の調べ~幼狐の末裔~172
天上の愛 地上の恋 二次創作小説:時の螺旋7
進撃の巨人 腐向け二次創作小説:一輪花70
天上の愛 地上の恋 二次創作小説:蒼き翼11
薄桜鬼 平安パラレル二次創作小説:鬼の寵妃10
薄桜鬼 花街パラレル 二次創作小説:竜胆と桜10
火宵の月 マフィアパラレル二次創作小説:愛の華1
薄桜鬼 現代パラレル二次創作小説:誠食堂ものがたり8
薄桜鬼 和風ファンタジー二次創作小説:淡雪の如く6
火宵の月腐向け転生パラレル二次創作小説:月と太陽8
火宵の月 人魚パラレル二次創作小説:蒼き血の契り0
黒執事 火宵の月パラレル二次創作小説:愛しの蒼玉1
天上の愛 地上の恋 昼ドラパラレル二次創作小説:秘密10
黒執事 現代転生パラレル二次創作小説:君って・・3
FLESH&BLOOD 二次創作小説:Rewrite The Stars6
PEACEMAKER鐵 二次創作小説:幸せのクローバー9
黒執事 韓流時代劇風パラレル二次創作小説:碧の花嫁4
火宵の月 BLOOD+パラレル二次創作小説:炎の月の子守唄1
火宵の月 芸能界転生パラレル二次創作小説:愛の華、咲く頃2
火宵の月 ハーレクインパラレル二次創作小説:運命の花嫁0
火宵の月 帝国オメガバースパラレル二次創作小説:炎の后0
黒執事 フィギュアスケートパラレル二次創作小説:満天5
薄桜鬼 昼ドラオメガバースパラレル二次創作小説:羅刹の檻10
黒執事 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:碧の騎士2
薄桜鬼ハリポタパラレル二次創作小説:その愛は、魔法にも似て5
薄桜鬼 現代妖パラレル二次創作小説:幸せを呼ぶクッキー8
黒執事 転生パラレル二次創作小説:あなたに出会わなければ5
薄桜鬼 現代ハーレクインパラレル二次創作小説:甘い恋の魔法7
薄桜鬼異民族ファンタジー風パラレル二次創作小説:贄の花嫁12
火宵の月 現代転生パラレル二次創作小説:幸せの魔法をあなたに3
火宵の月 転生オメガバースパラレル 二次創作小説:その花の名は10
黒執事 異民族ファンタジーパラレル二次創作小説:海の花嫁1
PEACEMAKER鐵 韓流時代劇風パラレル二次創作小説:蒼い華14
YOI火宵の月パロ二次創作小説:蒼き月は真紅の太陽の愛を乞う2
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の巫女0
火宵の月 韓流時代劇ファンタジーパラレル 二次創作小説:華夜18
火宵の月 昼ドラ大奥風パラレル二次創作小説:茨の海に咲く華2
火宵の月 転生航空風パラレル二次創作小説:青い龍の背に乗って2
火宵の月×呪術廻戦 クロスオーバーパラレル二次創作小説:踊1
火宵の月×薔薇王の葬列 クロスオーバー二次創作小説:薔薇と月0
金カム×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:優しい炎0
火宵の月×魔道祖師 クロスオーバー二次創作小説:椿と白木蓮0
薔薇王韓流時代劇パラレル 二次創作小説:白い華、紅い月10
火宵の月 遊郭転生昼ドラパラレル二次創作小説:不死鳥の花嫁1
火宵の月 現代転生パラレル二次創作小説:それを愛と呼ぶなら1
FLESH&BLOOD 千と千尋の神隠しパラレル二次創作小説:天津風5
鬼滅の刃×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:麗しき華1
薄桜鬼腐向け西洋風ファンタジーパラレル二次創作小説:瓦礫の聖母13
薄桜鬼 ハーレクイン風昼ドラパラレル 二次小説:紫の瞳の人魚姫20
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:黄金の楽園0
火宵の月 昼ドラ転生パラレル二次創作小説:Ti Amo~愛の軌跡~0
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:鳳凰の系譜0
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:鳥籠の花嫁0
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:蒼き竜の花嫁0
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:月の国、炎の国1
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:碧き竜と炎の姫君0
コナン×薄桜鬼クロスオーバー二次創作小説:土方さんと安室さん6
薄桜鬼×火宵の月 平安パラレルクロスオーバー二次創作小説:火喰鳥6
ツイステ×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:闇の鏡と陰陽師4
陰陽師×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:君は僕に似ている2
黒執事×ツイステ 現代パラレルクロスオーバー二次創作小説:戀セヨ人魚2
黒執事×薔薇王中世パラレルクロスオーバー二次創作小説:薔薇と駒鳥27
火宵の月 転生昼ドラパラレル二次創作小説:それは、ワルツのように1
薄桜鬼×刀剣乱舞 腐向けクロスオーバー二次創作小説:輪廻の砂時計9
F&B×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:海賊と陰陽師1
火宵の月×薄桜鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:想いを繋ぐ紅玉54
バチ官腐向け時代物パラレル二次創作小説:運命の花嫁~Famme Fatale~6
火宵の月 昼ドラハーレクイン風ファンタジーパラレル二次創作小説:夢の華0
火宵の月 現代ファンタジーパラレル二次創作小説:朧月の祈り~progress~1
火宵の月 現代転生パラレル二次創作小説:ガラスの靴なんて、いらない2
黒執事×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:悪魔と陰陽師1
火宵の月 吸血鬼オメガバースパラレル二次創作小説:炎の中に咲く華1
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:黎明を告げる巫女0
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:光の皇子闇の娘0
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:闇の巫女炎の神子0
火宵の月 戦国風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:泥中に咲く1
火宵の月 和風ファンタジーパラレル二次創作小説:紅の花嫁~妖狐異譚~2
火宵の月 地獄先生ぬ~べ~パラレル二次創作小説:誰かの心臓になれたなら2
PEACEMEKER鐵 ファンタジーパラレル二次創作小説:勿忘草が咲く丘で8
FLESH&BLOOD ハーレクイン風パラレル二次創作小説:翠の瞳に恋して20
天官賜福×火宵の月 旅館昼ドラクロスオーバーパラレル二次創作小説:炎の宿1
火宵の月 異世界ハーレクインファンタジーパラレル二次創作小説:花びらの轍0
火宵の月 異世界ファンタジーロマンスパラレル二次創作小説:月下の恋人達1
火宵の月 異世界軍事風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:奈落の花1
FLESH&BLOOD ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の花嫁と金髪の悪魔6
名探偵コナン腐向け火宵の月パラレル二次創作小説:蒼き焔~運命の恋~1
火宵の月 千と千尋の神隠し風パラレル二次創作小説:われてもすえに・・0
薄桜鬼腐向け転生刑事パラレル二次創作小説 :警視庁の姫!!~螺旋の輪廻~15
FLESH&BLOOD ハーレクイロマンスパラレル二次創作小説:愛の炎に抱かれて10
PEACEMAKER鐵 オメガバースパラレル二次創作小説:愛しい人へ、ありがとう8
FLESH&BLOOD 現代転生パラレル二次創作小説:◇マリーゴールドに恋して◇2
火宵の月×天愛クロスオーバーパラレル二次創作小説:翼がなくてもーvestigeー0
黒執事 昼ドラ風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:君の神様になりたい4
薄桜鬼腐向け転生愛憎劇パラレル二次創作小説:鬼哭琴抄(きこくきんしょう)10
火宵の月×ハリー・ポッタークロスオーバーパラレル二次創作小説:闇を照らす光0
火宵の月 現代転生フィギュアスケートパラレル二次創作小説:もう一度、始めよう1
火宵の月 異世界ハーレクインファンタジーパラレル二次創作小説:愛の螺旋の果て0
火宵の月 異世界ファンタジーハーレクイン風パラレル二次創作小説:愛の名の下に0
火宵の月 和風転生シンデレラファンタジーパラレル二次創作小説:炎の月に抱かれて1
火宵の月×刀剣乱舞転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:たゆたえども沈まず1
相棒×名探偵コナン×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:名探偵と陰陽師0
火宵の月×薄桜鬼 和風ファンタジークロスオーバーパラレル二次創作小説:百合と鳳凰2
火宵の月 異世界ファンタジーハーレクイン風昼ドラパラレル二次創作小説:砂塵の彼方0
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表紙素材は、黒獅様からお借りしました。「陰陽師」・「火宵の月」二次小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。―狐の子だ!―気味の悪い化け物め!―山へ帰れ!思い出すのは、石を投げられ、罵倒され、蔑まれた日々。―所詮人間なんて、こっちの力を利用するか怖がる事しか知らない、下等動物さ。脳裏に響く、誰かの声。「う・・」「先生。」「火月・・?」有匡が苦しそうに呻きながら目を開けると、そこには涙を流して自分の手を握っている火月の姿があった。「毒消しの薬湯だ、飲むといい。」「あぁ・・」晴明から毒消しの薬湯を渡され、有匡はそれを一口飲んだが、むせてしまった。「先生、大丈夫ですか?」「おい晴明、この薬湯、酷い臭いがするぞ!」博雅は晴明が作った薬湯を有匡の手から奪い、その臭いを嗅ぐと、それは腐った肉のような臭いがした。「いやぁ、この前お前が調合したものを再現して作ろうと思ったんだが、上手くいかないなぁ。」「晴明・・」博雅はそう言いながら、薬湯を下げた。「済まない、薬湯は俺が作る。」「じゃぁ、これを。」そう言って火月が博雅に差し出したのは、己の紅玉を粉末にしたものだった。「これを、薬湯に混ぜて飲ませて下さい。」「わかった。」有匡の全身から蜘蛛の毒が抜けるまで、数日かかった。「有匡殿、怪我の具合はどうですか?」「良くなりました。晴明殿、我らを保護して下さりありがとうございます。」「いや、何の。同族のよしみで助けたいと思っただけだ。」「晴明、晴明はおるかっ!」有匡と晴明が屋敷の中でそんな話をしていると、門の方から男の声が聞こえて来た。「先生、お客様ですか?」「火月、お前は奥に居ろ。」「はい。」「晴明殿、門の所で叫んでおられるのはどなたなのですか?」「藤原道長様です。」(藤原道長だと!?)時の権力者である藤原道長が、晴明に一体何の用なのだろうか―そんな事を想いながら有匡が晴明と共に奥の部屋から寝殿へと移動すると、そこには藤原道長が渋面を浮かべながら彼らを待っていた。「道長様、このような夜明け前にいらっしゃるとはお珍しい。何かわたくしにご用なのですか?」「勿体ぶった言い方をするな、晴明!わしがここに来たのは・・」「中宮となられた彰子様の御身に、何かあったのですか?」「流石だ晴明、わしがお主の元へ来たのはその事よ。」道長はそう言った後、晴明の隣に立っている有匡の存在に気づいた。「晴明、その男は誰だ?」「こちらの方は、わたしの遠縁の従兄にあたる、土御門有匡殿です。」「お初にお目にかかります、道長様。土御門有匡と申します。」「遠縁の従兄だと?確かに、少しお主に似ておるな。」道長はそう言って鼻を鳴らすと、ジロリと有匡を見た。「して、道長様、詳しくお話を聞きましょうか?」「あぁ、実はな・・」道長は寝殿に通され、晴明と有匡に“ある事”を依頼した。それは、出産を控えた娘・彰子を呪詛しようとしている者を突き止めよ、というものだった。「ほぉ、それはそれは・・」藤原道長は、娘を入内させ、その娘が懐妊した事により、自分達を恨む者が呪詛を企んでいると考えている。「して、その者に心当たりはございますか?」「それを突き止めて欲しいと言うておるのだ!」何という無理難題をふっかけるのだろうと、有匡は晴明と道長の会話を聞きながらそう思った。いつの世も、時の権力者というのは身勝手な者が多い。「彰子様の周りに居る者達の中に、呪詛を企む者が居るのでは?」「あぁ、そうだ。そこで、お前とその従兄に、後宮へ潜入して貰う。」「後宮へ、ですか?」「そうだ。お前達ならば、男だと簡単に露見する事もなかろう。」「承りました。」権力者に逆らえる筈もなく、晴明と有匡は後宮に潜入する事になった。「先生、お似合いです!」「やけに楽しそうだな、火月?」「前に一度、式神のおねーさん達と、先生が女装したら絶世の美女になるだろうなぁって話していた事があったんですが、まさにその通りになりましたね!」「そうか・・」有匡がそう言って溜息を吐いていると、“式神のおねーさん達”こと、有匡の式神である種香と小里が二人の元へとやって来た。「きゃ~、殿、お美しいですわ~!」「う、眩しい、目が、目がぁ~!」「先生、頑張ってくださいね!」「火月、お前も一緒に行くんだぞ。」「え?」「お前を一人にすると、心配だからな。」「え、えぇ~!」こうして、火月と種香達は有匡と共に後宮に潜入する事になった。「うわぁ、華やかな所ですね~」「火月、余りキョロキョロするな。」「す、すいませんっ!」「そこ、私語を慎みなさい!」「申し訳ございませぬ、こちらの者は、宮仕えが初めてな者でして、中宮様にお会いできる日を指折り数えて待っていたので、つい興奮してしまったのですよ、そうよね、火月?」有匡はそう言うと、年嵩の女房に睨まれた火月を庇った。「はい、申し訳ありません。」「中宮様の前では、失礼のないようにね!」年嵩の女房はジロリと有匡達を睨むと、そのまま主である彰子の元へと向かった。「中宮様、起きていらっしゃいますか?」「ええ、起きているわ。」そう言って御帳台の中から顔を出したのは、道長の娘であり中宮である、藤原彰子だった。「お父上様から、遣わされた新しい女房達がいらっしゃいました。」「まぁ、父上も心配性がますます拍車がかかっていらっしゃるようね。」(綺麗な方だ・・)真に美しい人は性別問わずその美は顔の美醜に関係なく、“内側”―心の美しさにあるのだと、有匡は彰子と会ってそう思った。「お初にお目にかかります、有子と申します。こちらは、わたくしの妹の、火月です。」「お初にお目にかかります、火月です。」「素敵な瞳の色ね。まるで炎を映したかのようだわ。」「ありがとうございます・・」「中宮様、妹は宮仕えが初めてなので、何かと至らぬ所もございますが、何卒ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い致します。」有匡がそう言って彰子に頭を下げ、彼女の局から去った時、火月が少し拗ねたような顔をして自分を睨んでいる事に気づいた。「どうした?」「べ、別にっ!」「お前、もしかして、わたしが中宮様と浮気するとでも思っているのか?安心しろ、わたしはお前しか愛さない。」「せ、先生~!」火月は喜びの余り、鼻血を出してしまった。「全く、あれ位の事で鼻血を出す奴が居るか。これから先が思いやられるな。」「す、すいません・・」有匡が火月を介抱していると、そこへ一人の女房がやって来た。「あなた方が、新しくいらした方ね?はじめまして、わたくしは紫式部よ、よろしくね。」「有子と申します。紫式部様、その巻物は?」「これは、わたくしが今書いている物語なの。中宮様のお心が、少しでも軽くなられるようにと、続きを書いてみたのよ。」「少し拝見してもよろしいでしょうか?」「ええ、構わないわよ。」女房―紫式部から巻物を見せて貰った有匡は、その物語が後に世に残る大作である事に気づいた。「まぁ、面白くなかったのかしら?」「いいえ、面白かったです。中宮様が続きを読みたいとおっしゃる理由がわかるような気がしますわ。」「ありがとう、この物語は、一人の男の人生と、その子供達のお話なのよ。」「お引き留めしてしまって申し訳ありませんでした、紫式部様。ひとつ、お願いがございます。」「何かしら?」「この物語の続きが出来たあかつきには、中宮様よりも先に読ませて頂けませんか?」「まぁ、そんなのお安い御用よ。」紫式部はそう言って、鈴を転がすような声で笑った。「ねぇ有子様、ご存知?定子様の所に、新しい女房が来られたのですって!」「定子様の所に?どのようなお方なのかしら?」「さぁ・・その方は、射干玉の如き艶やかな黒髪と、涼やかな目元をされておられるとか・・名は、晴子様とおっしゃったわね。」「まぁ、何という因縁なのでしょう、従妹同士がそれぞれ違う主に仕えるなんて・・」「晴子様、有子様とご親戚でいらっしゃるの?」「ええ・・親戚といっても、名前だけ知っている間柄ですわ。」「まぁ、そうなんですの。」周りの女房達から、“晴子”との関係を質問責めにされ、有匡がそう言ってのらりくらりと彼女達の質問をかわすと、彼女達はたちまち他の話題を話し始めた。(危なかった・・)「何やら、彰子様の方が少し賑やかですわね。」「新しい女房が二人、いらっしゃったようですわ。おひとりは美しい黒髪の方と、もうひとりは眩い金の髪を持った方だとか。」定子の元に仕える女房・清少納言は少し苛立ったかのような口調でそう言うと、持っていた檜扇を指先で弄った。「何をそんなに苛々しているの、少納言?」「紫式部が、あの物語とやらを・・」「あなたの随筆も、中々面白いですわ。」「ありがとう、晴子さん。」檜扇の中で溜息を吐きながら、“晴子”―もとい晴明は、彰子を呪詛しようとする者を突き止める前に、女だらけの職場である後宮独特の空気に参ってしまうのではないかと思い始めていた。そんな中、後宮で楽競べというものが行われ、有匡と火月は和琴で、晴明は琵琶でそれぞれ出る事になった。楽競べは滞りなく終わる筈であったが、博雅が彰子に招かれて後宮で女装姿の晴明を見つけてしまった。(晴明、晴明ではないか!)にほんブログ村二次小説ランキング
2024.03.26
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※BGMと共にお楽しみください。「陰陽師」・「火宵の月」二次小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「今日は月が綺麗だな、晴明よ。」「あぁ。」源博雅は、いつものように親友であり恋人である安倍晴明と共に、空に浮かぶ紅い月を眺めていた。「知っているか、博雅。紅い月には魔力があって、願い事を叶えてくれるそうだ。」「そうか。」「もし、願いを叶えるとしたら、博雅よ、お前は何を望む?」「こうして、いつまでもお前と酒を酌み交わしたい。」「そうか・・」そう言った晴明の横顔は、何処か悲しそうに見えた。「なぁ、晴明・・」博雅がそう言って晴明の方を見た時、激しい揺れが京の都を襲った。「何だ!?」「晴明、俺から離れるな!」揺れは暫くすると治まったが、晴明の邸の土塀が少し崩れていた。「無事か、博雅?」「あぁ・・」晴明はそう言って邸の周辺を見渡すと、向こうの通りから誰かの叫び声が聞こえた。「どうした?」「何やら、おかしい。」「おかしい、とは?」博雅がそう言って晴明に尋ねた時、彼の姿は既になかった。「晴明!?」京が地震に襲われる数時間前、鎌倉では一組の夫婦が生命の危機に瀕していた。「火月、しっかり掴まっていろ!」「はい!」土御門有匡と、その妻・火月は、突如幕府から倒幕祈禱に加担したという疑いをかけられ、逃亡先の唐土への次元通路を開こうとしたが、開かなかった。「先生、これから一体何処へ行けば・・」「それはわからん。今は、追手を撒く事だけを考え・・」有匡がそう言いながら馬を走らせていると、突然地の底から轟音が響き、地面に大きな裂け目が出来た。「先生!」「火月!」有匡と火月は、互いに抱き合ったまま、静かに落ちていった。「う・・」「火月、大丈夫か?」「はい。でも・・」火月はそう言うと、有匡の肩越しに何かを見て、怯えた。「どうした?」“美味そうだぁ・・”闇の中で不気味な声が響いたかと思うと、鋭い鋏と牙を持った巨大な蜘蛛が二人の前に現れた。「火月、さがっていろ。」“この芳しい匂い・・其方から、白狐の匂いがするぞ。”蜘蛛はカチカチと牙を鳴らしながらそう言うと、有匡に襲い掛かって来た。「縛鬼伏邪、急急如律令!」“おのれ・・”蜘蛛の身体は、砂のように消えていった。「先生、大丈夫ですか?」「あぁ・・」火月を安心させる為に有匡はそう言ったが、蜘蛛の毒牙が右胸を掠めていた。「おぉい、あそこに誰か居るぞ!」「運が良い、こんな日に貴族を見つけるとはなぁ!」「しかも連れの女は上玉だ。さっさと男を殺して女を売り飛ばそうぜ。」そう言いながら二人の前に現れたのは、野盗と思しき男達だった。「火月、お前は先に逃げろ。」「嫌です!」(まだ毒は全身に回っていない・・相手は五人・・一か八か、やるしかない!)「火月、目を閉じていろ。」「はい。」有匡は深呼吸した後、妖狐の力を解放した。「ひぃっ・・」「た、助け・・」「わたしに会ったのが、運の尽きだったな。」物言わぬ骸となった男達を見下ろしながら、有匡は苦しそうに喘ぐと、地面に蹲った。「先生、しっかりして下さい!」「心配するな。お前は、わたしが守る・・」 有匡は、自分達の方へと近づいて来る人の気配を感じた。(敵か・・?)「おや、俺と同じ“気”を感じるなと思って来てみれば、“同族”だったか。」紅い月が、自分達を見下ろす一人の男を照らした。「あなたは、誰?」「俺は、安倍晴明。この京の都を守る陰陽師だ。」「先生を、助けて下さい!」火月は、そう晴明に助けを求めた後、有匡を己の方へと抱き寄せ、涙を流した。その涙は、美しい紅玉となった。「晴明、そこに居たのか。」「博雅、いい所へ来た。」「その者達は?」「話はあとだ。まずは、怪我人を邸で手当てせねば。」「あぁ、わかった・・」 鎌倉の世と平安の世に生きた二人の陰陽師は、こうして紅い月に導かれる様にして、出会った。その出会いが、二人の運命を変える事になろうとも、この時の彼らには知る由もなかった。にほんブログ村
2024.01.24