キッシンジャー戦略の現在☆☆☆
つい最近になって、こんな驚くべき事実も判明した。 アメリカ国立公文書館が1972年当時のニクソン大統領らの会話を録音したテープ・500時間分を公開したが、その中には再選に向けてあせっていたニクソンが、ベトナム戦争の局面打開のために、核兵器使用の意向を漏らしたというすさまじい内容である。 それによると、ニクソンは72年4月25日、ベトナム戦争の拡大方針について協議する中で、安全保障担当補佐官のキッシンジャーに対して、おもむろにこう切り出した。「むしろ私は核爆弾を使いたいんだがね。"I'd rather use the nuclear bomb,"」 この経緯が録音で鮮明に再現された。そのとき、キッシンジャー博士は真面目になって、「それはあまりにもやりすぎだと私は思いますよ。"That, I think, would just be too much," 」とはっきりと反対した。 が、ニクソンはしつこく核攻撃案に固執して、こうも言った。「核爆弾だぞ。(ベトナムに多数の死者が出ても)構わないじゃないか、君。"The nuclear bomb. Does that bother you?" 」「君、こういうことは大胆に考えてほしいもんだね。 "I just want you to think big."」 しかし、キッシンジャーは(あまりにも小声なので聞き取れないが)最後まで同意しなかったので、ついにニクソンも無謀な核攻撃談義は引っ込め、提案することも相談することもやめたという。 閣下はこのときの博士の気持ちはよくわかる。 キッシンジャーの構想には、ソ連の首脳(レオニード・ブレジネフ)と核兵器・大陸間弾道ミサイル制限交渉という外交カードがあった。 だから、ニクソン政権が、こんなふうに、たまたま気まぐれで、核兵器の使用をしてしまった場合は、反戦運動どころか、全世界を敵対させる結果になったはずだ。ベトナム戦争は交渉どころではなくなったであろう。 キッシンジャー博士が、青年研究者の時代から、核兵器使用に否定的な戦略問題の専門家であったことは、まさに世界と全人類の幸運であった。 今日の午後だが、東京12チャンネルで、日高義樹のワシントン・リポートが放送された。 そこでヘーゲル上院外交委員長が質問に答えたが、彼は非常に言葉を選び、そして韓国に対する不満を示しつつも、「韓国政府を信頼する」とくりかえし強調した。 日高さんは、よくキッシンジャーを訪問して、いろいろインタビューをこなしてきたが、きちんと戦略理論を研究した人ではない。 確かに良い知人ではあるが、「弟子だ」とは自分でも言わないだろう。 その意味では、ヘーゲル委員長のしっかりしたヴィジョンと、これからの外交展望について、彼が高水準の情報環境にあることを、閣下は少しうれしく思ったのである。