|
カテゴリ:翻訳・通訳・英語
大学時代、自分が所属していた美術サークルに、知人に対し「死ね。」とか「バカ。」とかへーキで言う、極めて率直だが極めて失礼な後輩がいた。オイラは入学して間もないコイツに「奇形っぽい顔をしている」と言われたことがある。(ちなみにコイツは今では出世して、ある分野の専門家としてメディアに顔を出すようになっているのだが。)
オイラは、もはや中年にもなり、自分の外見とはとっくの昔に“折り合い”をつけているつもりではあるのだが、今でもときおり自分の特殊な顔のせいで悩むことがある(参考)。 オイラの本業は通訳・翻訳である。...で、通訳をしている時のオイラの顔はまさに「異常者」のそれであるらしい。 今週オイラは、米国本社会長の2泊3日の日本訪問に際し、同行通訳を仰せつかった。 訪日2日目、会長に対する某新聞社の取材が終わった後、取材に同席していた日本法人の社長が真剣な顔でオイラに言った。 「別に通訳自体には問題なかったけど、あの顔は止めた方がいい。あなたのことを知らない人が見たら、あれはゼッタイ“変な人”だと思うだろう。」 じつは、昨年の会長訪日の際にも同行通訳を務めたのだが、オイラはそれ以来1年間通訳らしい通訳をしたことがなかった。おかげで、通訳に必要とされる“瞬発力”が完全に衰えていた。瞬間的に頭に浮かばなければいけないハズの「訳語」がゼンゼン出てこないのであった。 お客様との会合の席、数百人の社員を前にしてのスピーチ …会長の喋る英語にせよ、お客様の日本語にせよ、言っている内容は理解しているのにも関わらず、頭の中で訳そうとしても単語が出てこない。 …こんなとき、必死で「対訳」を探すオイラの顔は苦痛に歪む。苦痛に歪みながらも、自分が書き取ったメモを見ながら、いちおう喋らねばならない。 頭の中で「ダメだー、単語が浮かばない!」とつぶやくオイラの顔の半分は醜く引きつるが、もう半分は真剣に目を開いて手書きのメモを追っている。しかし、相手がきちんと聞き取れるように口はふつうに動かしている。…ひとりの人間の顔が、「焦って必死な顔」と「集中した真剣な顔」と「真面目で冷静な顔」を同時に表現しているのである。しかも地顔が「奇形」だ。…たしかにこれは尋常な顔ではない。 社長に「変な人の顔」と言われたその翌日、日本法人の重役陣と会長との会食の席で際、オイラは極力「ふつうの顔」で通訳を試みることにした。 最初のうちは何とか訳を喋っていた。しかし、そのうち集中力が切れてくる。 …通常であればこのあたりで顔が苦悶に歪み始めるところである。しかしオイラはグッとこらえて「平静な顔」を保った。…すると今度は「表情」を意識しすぎて、カンジンの訳に気が回らない。すぐに頭が真っ白になって、オイラの口からは言葉が途絶えた。 …そもそも、通訳をしている時の通訳者の心理状態というのは一種の異常心理状態であると思う。頭の中を「複数の話者(通常は2人)」と「自分自身」の「一人三役」に使い分けのだから、当たり前である。 この「一人三役」のうち、脳の負担を減らすために唯一「滅却」できるのが「自分」である。つまり、「自意識」という領域を脳味噌というメモリから消去すれば通訳はラクになるのだが、「複数の話者」の意識に加え「自意識」も稼動させた状態になると、CPUは容易に焼き切れてしまうのであろう。 「異常者の顔の通訳」じゃ、仮に会社を辞めてフリーランス通訳になっても仕事が来ないだろうなあ(笑)。…ま、仕事の最中に苦悶しないで済むよう、日々地道に通訳の練習を積めばいいんだろうけどさ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2004.03.16 20:20:11
コメント(0) | コメントを書く
[翻訳・通訳・英語] カテゴリの最新記事
|
|