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カテゴリ:翻訳・通訳・英語
昨日訪問した日系企業で同席したアメリカ人は、オイラがいままで会った通訳の中でも、たぶん最も優れた通訳者であった。 日⇒英と英⇒日 双方向の通訳を、逐次ではなく同時で通訳するのである。 しかも、会議が2時間、3時間…と続いても集中力を途切れさせず、正確な日本語及び英語で訳し続けるのを見ていて、「感心」がすぐ「驚嘆」に変わり、やがて「畏怖」さえ感じ始めた。 オイラは、むかし通っていた通訳学校や、フリーランスで翻通訳していた時期を含め、おそらく100人以上のバイリンガル・スタッフやプロの通訳者を見ている。 その中には、彼と同等のスピードと正確さで英語を日本語に訳すプロの日本人もいた。しかし、これはあくまで母国語に訳す英⇒日の一方通行の場合だけであって、日⇒英となると訳出のスピードや正確さが明らかに落ちていた。 また、テレビのニュースなどで2カ国の首脳が会談する場面が放映されることがあるが、通常は、たとえば日本側に通訳者が1人いて、相手国側にも通訳者が1人いて、お互いの国の首脳に対して通訳をしている。1人の通訳者が両国の通訳を同時にこなしていたら忙しくてしょうがないはずだ(笑)。 しかし、昨日のアメリカ人は、驚いたことにこの大忙しを実際にこなすのである。日本人サイドの言うことを英語に、アメリカ人サイドの言うことを日本語に、なんと同時通訳で、しかも的確な表現で、延々と通訳し続けるのである。もちろん会議の席はこのアメリカ人がフル回転で喋りっぱなしである。しかも、時にダブったりする複数の出席者の発言を、すかさず漏らさずにちゃんと拾って訳すのだから偉い。 言っておくが、国際会議などで同時通訳者を起用する場合には、通常2人程度の通訳者がペアを組んで行う。これは、同時通訳をするために必要な集中力が持続可能なのはせいぜい10分程度が限界なので、だいたい5~10分ごとに通訳を交代しているからである。1時間や2時間の会議を1人の通訳者がぶっ続けで行うなどということは人間の能力のキャパシティを超えており、通訳業界では「考えられない」ことなのである。その「常識では考えられないこと」をこのアメリカ人は平気な顔でこなしているのである。 オイラも同時通訳を多少できないでもないが、それはあくまで社内での話し合いのように、自分がその話題や背景を理解し把握している場合に限られる。アメリカ側あるいは日本側が何を言うかある程度予測が立つ状況であれば、話者が何かを言い始めて、それが何を言おうとしているか察しがついた段階で、通訳するというより「自分のことば」を喋る感覚で表現できるからである。 しかし、通訳している最中に、目の前で話しているアメリカ人の鼻毛の先にハナクソがついているのが目に入ったり、熱心に喋る日本人のオッサンの唾液の飛沫がオイラの手元に飛ぶのが目に付いた途端に注意を削がれ、大事な単語を聞き逃して通訳が中断してしまうこともしばしばである。これらの雑念や邪念を振り払って話す内容だけに注意を払い続けるのはかなりの苦痛なので、通訳をしている最中のオイラはだいたい苦悶に顔を歪めている。 しかし、このアメリカ人ときたら、こんな大忙しの同時通訳を1時間以上続けても、まったく涼しい顔をしているのである。この男は、通訳をしている最中に正面の席に座る日本人女性の胸元に注意を奪われて余計なことを考えてしまったり、日本人の上司のいうマヌケな発言に関係ないことを考え始めたりしないらしいのである(笑)。きっと、心の中に邪念のない、透明な心の持ち主なのであろう。 正直言って、このアメリカ人とロビーはじめて対面したとき、カタコトの日本語を喋る単なるニイチャンなんだろうとタカを括っていた。一見してどこにでもいそうなフツウのアメリカ人のアンチャンだったからである。しかし、通訳しているときの彼の顔を見ていて、その蒼い眼の目つきがアメリカ人ではないことに気づいた。きっとこの男の頭の中には日本人とアメリカ人が2人住んでいて、それが同時に並行して走っているのである。そうとしか考えられない。 ただ、会議が終わって客先の日本人社員に聞いて少しだけ安心したのは、このアメリカ人男性は喋りの方は神ワザだが、日本語の読み書きができないという話であった(笑)。「日本語」のEメールを日本の本社に送信する際には、「Otsukaresama desu」「Bochibochi desu」などとローマ字で(しかも関西弁がかった日本語で)打ってくるらしい。 一瞬、こういうアメリカ人があちこちにいるようになるとオイラも商売上がったり、オマンマの食い上げになりかねないと懸念したが、翻訳にすがりつけばまだなんとか立場が維持できそうだと知り、ちょっぴり安堵したオイラであった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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