2500009 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

ラッコの映画生活

ラッコの映画生活

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

PR

Calendar

Freepage List

Category

Comments

Jeraldanact@ Проститутки метро Электросила Брат замминистра инфраструктуры Украины…
SdvillkeS@ ИнтерЛабСервис [url=https://chimmed.ru/ ]brueggemannal…
hydraGes@ Новая ссылка на гидру v3 новый сайт гидры v3 <a href=https://hydraruzpnew4afonion…
間違い@ Re:『沈黙の行方』トム・マクローリン監督(米・加2001)(02/21) 姉ではなく、妹です。 なので、弟ではなく…
RogerEQ@ Это вам будет по вкусу разработка сайтов веб сервис - <a hr…

Profile

racquo

racquo

Favorite Blog

コイケランド koike1970さん
Kabu + Plus エースNo1さん
行きかふ人も又 はる **さん
Nobubuのbu… Nobubuさん

Keyword Search

▼キーワード検索

2008.04.08
XML
カテゴリ:フランス映画
DANS LE NOIR DU TEMPS
Jean-Luc Godard
(所有DVD)


DANS LE NOIR DU TEMPS(時間の闇の中で)
Jean-Luc Godard


noir_0.jpg

大トリは巨匠ジャン=リュック・ゴダール。10分の短編という依頼に「1分の短編10本」と答えたらしいけれど、実際にはこの1分は10本で一つですね。観る方によってはいちばんつまらない、わけのわからないものかも知れないけれど、他の14本が、出来不出来、好き嫌いはあっても、やはりどれも平凡な作品である中で、ひときわ異彩を放った傑作です。このDVD、数千円の衝動買いをしてしまったけれど、ゴダールのこの10分で元を取った感じです。一回見て、2度目にメモ取りながら見ただけで、まだ不明なことはあるし、これから何度かまた見ることになりそう。普通2時間の映画でもメモは多くてノート1ページなのですが、この10分で既にノート2ページのメモになりました。

noir_1.jpg

邦題は『時間の闇の中で』となっているけれど、始まるとまず黒い画面に白抜きの文字で DANS LE NOIR と出て、次に DU TEMPS と出ます。「暗闇に中で」→「時間の」です。この暗闇というのは、一つには観客が今いるはずの映画館の暗闇のことで、時間というのは(まずは)映画という含意があると思います。つまりこの作品は一つには映画について語っているということです。そのテロップと重なる形で第一の引用映画から若い女のセリフ。老年の男がそれに答えます。

 「なぜ夜は暗いの?。」
 「昔は空も君のように若くて、
  明るく光り輝いていた。
  だが時と共に暗くなっていった。
  夜空に輝く星々の間には、
  失われたものしか見えない。」


これは映画のことを言っている。と言うより映画のことを言っているというコンテクストでゴダールが引用している。この作品はほんの一部を除いて自作や他作の映画の一場面、あるいはアウシュビッツ等の記録映像のコラージュで作られている。しかし単にフィルム to フィルムの引用ではなく、一度デジタル化され、多少ゴダールが画質をいじっている。結果として(DVDをテレビ画面で見ているので曖昧だがたぶん)画質的にデジタルであることがわかる。

noir_2.jpg

続く1分作品の題名テロップは「最後の瞬間」→「若さの」だ。引用映像は自作『メイド・イン・USA』のラストの方でジャン=ピエール・レオが撃たれるシーン。最後の瞬間とは映画の「ラスト」でもあり、レオの最後でもあり、また若さの最後とは「映画が若かりし頃の最後」でもある。引用映画の映像をわざとデジタル風に見せているように、デジタルの普及によって、フィルムによる映画という一時代が終焉することを言っている。他のゴダールの作品、例えば『ゴダールのマリア』も『ゴダールの決別』もそうだけれど、音楽は突然中断し、情緒の流れが続かない。しかしここではアウシュビッツか何かのフィルムの部分での数秒間を除いて、ベートーベンの『月光』を思わせるピアノの旋律が常時続いていて、ノスタルジックな気分も持続していて、もの凄く叙情的な気分がある。

noir_3.jpg

布のスクリーンを広げたり畳んだりのアート・ロボットが最後の方に写されるが、これも従来の映画館のスクリーンのフィルム映画の終焉の象徴でもあるのだろう。ラストのみカラーの使われたエイゼンシュテインの『イワン雷帝』からの引用もあるが、エイゼンシュエテインと言えば近代映画の創始者のような存在でもある。

noir_4.jpg

アンナ・カリーナの引用映像は、自作『女と男のいる舗道』でカリーナがドライヤーの無声映画『裁かるるジャンヌ』を見て涙を流すシーンだけれど、ここでは映画はまだ映画は生きていたということでしょう。あとは涙は作品全体の映画を弔う気分でもあり、自らの生を生きる Vivre sa vie(女と男のいる舗道の原題)という生の哀しみにもつながる気もします。

noir_5.jpg

途中「語れないことは、沈黙に任せるしかない。」というセリフもあったが、上に書いたように虐殺死体が片付けられるシーンの数秒だけが無音になる。無音と言えば『はなればなれに』を思い出しもしますね。ピアノの旋律がこのように雰囲気を持続するのはゴダールの作品としては珍しいわけだけれど、音楽は音楽でもって映画の気分を規定してしまう。一方には言葉の無力があり、他方音楽は安易に気分を規定するから、無音によって映像と沈黙に語らせるということでしょうか。中断したピアノをまた直接再開するのではなく、沈黙の後に別の歌で音声を再開し、いつの間にかまたピアノに戻すというやり方なども実に巧みです。

noir_6.jpg

そして途中に引用画像ではなく出てくる、本をゴミ袋に入れて捨て、トラックにゴミとして収集される映像。これは語りの終焉だ。『メイド・イン・USA』の引用部分でも語ることの意味を問うのがカリーナのセリフだった。そして映画よりももっと前に、あるいは同時に過去のものとなって行った書物、あるいはそういう思考スタイルの終焉をも描いている。最後の方でロウソクの炎がゆらめき、後ろに古い書物のような絵のようなものが見える映像があったが、それは何百年も前の書を暗い古文書館で見ているような趣きだ。書物も、ゴダールが慣れ親しんできた20世紀後半の知や映画が古文書の類になってしまった象徴だろうか。

noir_7.jpg

最後の方のテロップは、

 「夕暮れ」と彼は言う。
 「夕暮れ」と彼女は言う。
 「夕暮れ」と彼らは言う。


まるでマルグリット・デュラスの小説を読んでいるかのようなのだが、デュラスに代表されるヌーヴォー・ロマンという20世紀後半フランスの実験的・前衛的文学が物語の解体や言語の解体を行ったように、ゴダールは映画の物語性の解体を行った人だ。そして夕暮れとはまた、映画や知の黄昏れだ。夕暮れ(le soir)であって夜(la nuit)ではない。失われていく中の最後の時にまだあるということだろうか。

noir_8.jpg

一見自作映画や、ドライヤー、パゾリーニ、記録フィルム等他作をコラージュしただけではあるようでも、こんなコラージュは並み大抵の才能では出来ないでしょう。考えに考え抜かれています。映画に関する豊富な知識と、自らの思索・思想の深さがなければ、こういうものは作れませんね。感服しました。



10ミニッツ・オールダー ~人生のメビウス~
第1話『結婚は10分で決める』(カウリスマキ)
第2話『ライフライン』(エリセ)
第3話『失われた一万年』(ヘルツォーク)
第4話『女優のブレイクタイム』(ジャームッシュ)
第5話『トローナからの12マイル』(ヴェンダース)
第6話『ゴアvsブッシュ』(リー)
第7話『夢幻百花』(陳凱歌 チェン・カイコー)

10ミニッツ・オールダー ~イデアの森~
第1話『水の寓話』(ベルトルッチ)
第2話『時代×4』(フィッギス)
第3話『老優の一瞬』(メンツェル)
第4話『10分後』(サボー)
第5話『ジャン=リュック・ナンシーとの対話』(ドゥニ)
第6話『啓示されし者』(シュレンドルフ)
第7話『星に魅せられて』(ラドフォード)
第8話『時間の闇の中で』(ゴダール)



監督別作品リストはここから
アイウエオ順作品リストはここから
映画に関する雑文リストはここから





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2008.04.09 08:29:22
コメント(4) | コメントを書く



© Rakuten Group, Inc.
X