最高にあっつい日本人に会いました!!
HBSで一学年後輩のOさん。
彼のバックグラウンドは、かのトヨタ生産方式を海外企業に広めるコンサルタント。
メキシコやロシアなど新興国の、ソーセージ会社、靴会社など、いろいろな製造業の原価を飛躍的に下げ、生産性と競争力をたたき出した、血と汗と涙の体験談を聞かせていただきました。
まず、Oさんが強調していたのが、「トップのコミットメント」。
トヨタ生産方式は、「ヒトが変わる」ということが起こらないと、成功しないので、まず、会社のトップが、「これを実行するぞ」という強い気持ちを持つことが大事なんだそうです。
トップのコミットメントを確認したら、気合の「カイゼン」プロジェクトが始まります。
最初に、1週間くらい工場に張り付いて、徹底的にムダを探し出すそうです。
これも、Oさんが先頭に立って、24時間体制で、手を汚して、分析して、ムダを見つけるという動作のお手本(lead by example)を見せてあげるそうです。
(ちなみに、彼のお父さんは、トヨタのケースでも登場する、トヨタ生産方式の権化のような有名な方で、そのお父さんの場合は、1時間工場のフロアを見回るだけで、オペレーションの弱みが把握できてしまうそうです)
こうやってお手本を見せたら、現場の人たちに「次回のミーティングまでにこの部分のパフォーマンスを改善させよう(例:あるラインの歩留まりを上げるとか)」といった「宿題」をあげて、一旦引き上げます。
一旦引き上げるのは、結局、現場の意識が変わって、自発的にカイゼンをしていく、ということを学んでもらわないと、本質的に状況は変わらないからだそうです。
この「お手本」と「宿題」を繰り返していくうちに、現場の意識はどんどん変わっていくそうです。
メキシコのある工場では、従業員の士気がいまひとつで、従業員がすぐ工場をやめてしまうというのが悩みの種だったのですが、トヨタ式を導入して、一人一人の知恵によっていろんな指標が改善していくうちに、従業員たちは「考える楽しさ」を覚え、彼らのやる気は見違えるように変わっていったそうです。
ちなみに、お給料の出し方などのインセンティブ体系は、いじらないそうです。
だから、飛躍的な原価の下げは、ひとえに従業員たちの「やる気」の向上によるもの。
もちろん、原価が下がって、工場の生産性が上がれば、工場の利益も上がっていくので、それに応じて、中長期的には従業員の給料は上がっていきます。
そして、くしくも、Oさんは、マイケル・ポーター教授と同じことを言っていました。
「経済成長に伴って労働者の賃金は上がっていく。
そうすると、賃金が高くなった国の工場はつぶして、もっと賃金の安い国に工場を移動させよう、と考えがち。
そうではなくて、賃金の上昇に伴って、もっと頑張ってカイゼンも行い、生産性を上げていくことが大事。
そうすれば、賃金の高い国の工場も、賃金の安い国の工場に対して競争力を持ち続けることができる。」
結局のところ、競争力や国の豊かさに直結するのは、賃金の安さなどの”factor condition”ではなく、あくまで生産性だ!という、ポタがいつも口を酸っぱくして言っている考え方は、トヨタでは既に常識のようです。
もちろん、トヨタ式のような新しい考え方を伝えていくときに、文化の違いは考慮しなければなりません。
でも、例えば、アメリカでは野球やアメフトなどのスポーツに例えて、チームワークの話をするなど、相手に刺さる説明の仕方を考えれば、文化の違いは乗り越えられる、とのこと。
最後に、今後、トヨタ生産方式がもっともっと世界に広まっていくために、何が必要なのか、聞いてみました。
今後の成長のための最大のボトルネックは、「人材育成」だそうです。
トヨタ生産方式は、多分に「伝統工芸の伝承」的な要素があって、エンジニアたちは、「暗黙知」を何十年もかけてマスターしていくそうです。
それなのに、アメリカなんかだと、折角成長してきたエンジニアも、一人前になるかならないかのうちに、高い給料で他社に引き抜かれてしまうそう。
一方、日本では、ベテランさんたちは、言葉の壁やカルチャーの壁もあり、海外、特に途上国でトヨタ式を広める、といったプロジェクトを引き受けてくれる人はまだまだ少ないそう。
たしかに、こういう「伝統工芸」的な要素があるからこそ、トヨタ式はそんなに急速に広まっていくというわけにはいかないんですね。
だからこそ、今後、「暗黙知」を「形式知」化しつつ、いかにトヨタ式をマスターした人材を効果的に育てていけるか、というのがOさんの腕の見せどころなのでしょう。
* * *
トヨタ式のすごいところは、新しい設備投資を打ったりせずに、今あるリソースの中で、徹底的にムダを省き、コストを下げていく、というところ。
つまり、おカネがなくても、生産性が上げることが可能!というのが、すごいんです。
僕としては、途上国の経済発展のためには、途上国の産業競争力が上がっていくことが鍵で(なぜなら、国の富を生み出すのは常にビジネスだから)、
途上国の製造業にトヨタ式を教えてあげることは、まさに日本にしかできない国際貢献の方法だと思うし、実は、ODAなどの金銭的な援助と同じくらい(あるいはそれ以上?)インパクトがあることなんじゃないかと思っているのです。
そして、こういった技術移転や産業競争力強化が、今の日本の途上国支援業界で、最も未開拓な分野で、かつ最もポテンシャルのある分野なのではないかと思うのです。
だから、将来、Oさんと一緒にコラボをして、日本のすぐれた技術やノウハウを、きちんと対価を取る形で(例えばアドバイスの対価に当該企業の株式をもらうとか)アフリカの企業に伝え、アフリカの産業の競争力を上げる!といったプロジェクトができたらいいなあ、と思います。
Oさんも、大学時代は国際関係や開発学を勉強されていたそうで、上記のアイディアに関してかなり意気投合しました。
こんな「お宝キャラ」が一学年下にいるなんて、もっとはやく気づいておけばよかった!
今から、将来のコラボの機会が楽しみです!!
(Oさん、ご多忙の中、ほんとうにありがとうございました!もし誤りや誤解を招く書き方があったらご指摘下さいね。)