センセイの姿をうまく想像出来なかった。祖父を当てはめてみたり、内田百間を思い浮かべたりしたが合わず、背広を着ていると書かれていても着流し姿し浮かんでこず、いつまでも「センセイ」は目の前に現れてはくれなかった。読み終えた後、戯れに想像の中で作者本人にお爺さんの格好をさせてみたら、予想以上にしっくりときた。そして私は男装の麗人に恋する30幾つか歳の離れた女装の男性。倒錯というよりただの悪趣味な仮装空間の中で、私はセンセイと自然に話せた。あまり変態にならない内にやめた。
私は日本酒を読むと頭が痛くなるタチなので、センセイとツキコさんが楽しそうに酌み交わす酒に入り込めず、肴の描写の部分を摘んで食べた。巨人を嫌うところでツキコさんに肩入れし、俳句作りに悩むところではセンセイに傾き、二人が本格的にくっついてからは大きく距離を置いて読んだ。読む前に思っていたような、受けつけないという感覚はなかった。
これは女性側からの物語なのだから素敵な物語なのだ、ということかもしれない。好色な祖父を持った私は、晩年祖父がつけていた日記により、お年寄りにもドロドロした色欲のあることがよく分かっているから、センセイの姿がうまく像を結ばなかったのかもしれない。
とにかくいろいろなものが、美味しそうだった。
平凡社 2001年
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