議決文全文を読んでもやはり論理的な評価は変わらない
検察審査会の議決書全文の資料を見つけた。抜粋ではなく元の文章だ。法律的な内容を書いた文章というのは、とても読みにくいもののように感じる。新聞等が、その要約を載せたり抜粋をしたりしているのは、この読みにくさを少しでも和らげるためだろうが、何か書かれていないことで大事なことがあるのではないか、ということを調べるには要約や抜粋では、それを調べることが出来ない。全文を見ることで、論理的な判断として、実は重要で正しいことがないかどうかを見てみよう。全文の資料は、<弁護士阪口徳雄の自由発言>というブログの「小沢氏起訴相当の議決書全文(政治とカネ212)」というエントリーにある。これは、<反戦な家づくり>というブログの「検察審査会って こんないい加減なもんだったの?!」というエントリーで知ったものだ。いずれのエントリーも、この議決に対する批判も語られており、それも参考になる。改めて、全文に対しての批判を確認しておきたいと思う。全文を読んだあとでもなお、最初の批判がまだ妥当するかどうかを考えてみたい。まず第1 被疑事実の要旨としては、次の二つがあげられている。1 陸山会会計責任者A(以下Aという。)及びその職務を補佐するB(以下Bといぅ。)と共謀の上、平成17年3月ころ,平成16年分の陸山会の収支報告書に,本件土地代金の支払いを支出として,本件土地を資産としてそれぞれ記載しないまま,総務大臣に提出した 2 A及びその職務を補佐するC(以下「C」という。)と共謀の上,平成18年3月ころ,平成17年分の陸山会の収支報告書に,本件土地代金分過大の4億1525万4243円を事務所費として支出した旨,資産として本件土地を平成17年1月7日に取得した旨それぞれ虚偽の記入をした上総務大臣に提出した実にわかりにくい文章だが、ポイントは、「本件土地代金の支払いを支出として,本件土地を資産としてそれぞれ記載しないまま,総務大臣に提出した」ということと「本件土地代金分過大の4億1525万4243円を事務所費として支出した旨,資産として本件土地を平成17年1月7日に取得した旨それぞれ虚偽の記入をした上総務大臣に提出した」ということになるだろうか。これに対して、郷原信郎さんは次のようなツイートをしていた。「nobuogohara NNNが行った緊急電話アンケートによると、小沢幹事長を「起訴相当」との議決について、「支持する」が68.3%、「支持しない」が21.7%。起訴相当としている「被疑事実」が単なる期ズレの問題に過ぎないことなど議決の中身を殆ど報じていないのにアンケートをやる意味があるのでしょうか。」上の文章は非常にわかりにくい上に、その意味を正しく受け取るには、これまでの一連の流れについてある程度知っていなくては、その「起訴相当としている「被疑事実」が単なる期ズレの問題に過ぎない」という判断はなかなか出来ないかもしれない。郷原さんは、「プレスクラブ (2010年04月28日) 郷原信郎元検事講演(「司法の在り方を考える議員連盟」会合)」の講演でもこのことに触れて、この「被疑事実」が犯罪として告発するだけの「起訴」に当たるのかという疑問を提出している。当然、そんなものは「起訴」に値しないので、専門家としては考えもしなかったので「盲点を突かれた」と皮肉っていた。郷原さんがこれまで論じてきたのは、小沢さんから、当時の石川秘書(現衆院議員)が現金として受け取った現金4億円の「不記載」という問題が犯罪として告発できるかどうかという問題だった。郷原さんは、その4億円が、何か不正な出所を持った金で、記載して表に出るのを防ぐために不記載にした、という背景があるなら、その悪質性を指摘できて犯罪性を証明できるだろうと論じていた。不正な献金から得た金であるからこそ不記載にしたということが証明できるかどうかに、犯罪性の証明がかかっているという論理だった。だからこそ、検察はこの4億円の中に、水谷建設からの違法献金が入っているということを証明しようとして、石川元秘書が、水谷建設の関係者と会っていたという証拠を求めていた。しかし、それは何一つ証拠としては得られなかった。その結果として、石川議員は、政治資金規正法の記載ミスだと思われる微罪で起訴されたものの、それさえ犯罪と呼べるものかどうかも疑わしい事柄で、小沢さんの共犯を証明できるはずがない、という判断から検察は小沢さんを不起訴にしたという理解が正しいのだと思う。犯罪として告発できるなら、この問題以外には考えられないと思っていた郷原さんは、「被疑事実」として、当然それが語られていると思っていたのに、全く予想外の事柄で告発されていたと、講演では驚いていた。「単なる期ズレの問題」など、犯罪事実として告発できる内容ではないというのが郷原さんの指摘だった。「検察審査会議決の要旨」というニュースでも、この「被疑事実」に関しては、「(1)会計責任者の元公設秘書大久保隆規、元私設秘書の衆院議員石川知裕の2被告と共謀の上、05年3月ごろ、04年分の収支報告書に、土地代金の支払いや土地を記載しないまま、総務大臣に提出した (2)大久保、元私設秘書池田光智の2被告と共謀の上、06年3月ごろ、05年分の収支報告書に、土地代金分を含む約4億1500万円を事務所費として支出し、土地を05年1月7日に取得したと虚偽記入し、提出した―ものである。」と、その内容を、法律文そのものよりは読みやすくしてあるものの、これがどんな意味を持っているのかという解説はない。ニュースは事実を伝えることに重要性があるというのは、一般論としてはその通りだが、その事実があまりにも難しいときは、その理解の助けになるような解説が必要だと思う。また、その解説は、客観性・公平性があるもので、あくまでも内容の理解の助けになるような解説でなければならない。恣意的な強引な解釈による解説は、産経新聞などによく見られるが、本来のジャーナリズムにあるべき適切な解説は、この問題に関しては何も見あたらない。この段階で、検察審査会の「起訴相当」の判断に対して賛成か反対かを問うようなことは、郷原さんがつぶやくように「議決の中身を殆ど報じていないのにアンケートをやる意味があるのでしょうか」という感想がもっともだと思う。この中身を端的にうまくまとめているのは、<反戦な家づくり>というブログの「検察審査会って こんないい加減なもんだったの?!」というエントリーだ。そこでは「郷原氏や週刊朝日も、たくさんの論考を書いておられる。ようするに、「犯罪」とされる点は一点。平成16年10月に土地代金を支払ったのに、それを16年ではなく平成17年の収支報告書に書いた。憶測をすべてよけて、法律でなにが問題なのかというと、これだけだ。いったいこれが、どうして一国の揺るがす犯罪なのか?記載漏れですらない。次の年になっているだけだ。検察は、これが収賄を隠すための工作だったと証明したかったわけだが、結局できなかった。石川氏も、水谷建設からの贈収賄で起訴されているわけでは全然無い。ただ単に、土地代の支払いについて、次の年の収支報告書に書いた と言うことだけだ。」と書かれている。「単なる期ズレの問題」というものの意味は上のように理解すればいいということだ。これが、悪質で重大な犯罪行為だ、というような判断が論理的に導かれるなら検察審査会の判断が正しいと支持されるだろう。だが、そのようなことを論理的に導こうとするのは、かなりの無理があるのではないかと思う。まさに「単なる」といいたくなるような末梢的なことなのではないかと僕は思う。