ウィーンの老舗食料品店ー ユリウス・マインルでの不愉快な経験 (5)
ウィーンの老舗食料品店ー ユリウス・マインルでの不愉快な経験 (5) ユリウス・マインルでの不愉快な経験の件であるが、その後私とマインルとのやりとりのコピーを送っていたVISA-AUSTRIAから反応があった。次のようなものであった。 Sehr geehrter Herr ××,aufgrund der Tatsache, dass mit Ihrem zuletzt gesandten Email auch eine Kopie an die "Office"-Adresse von VISA-AUSTRIA geschickt wurde, erlauben wir uns, Folgendes darzulegen.Die in der bisherigen Kommunikation geschilderte Vorgangweise durch Mitarbeiter der Firma Meinl in Bezug auf Art und Weise der Unterschriftskontrolle entspricht voll und ganz sowohl den direkten, vertraglich geregelten Pflichten als auch den im internationalen VISA Geschäft üblichen Gepflogenheiten. Die für eine sichere Abwicklung einer bargeldlosen Zahlungstransaktion notwendige Sorgfalt dient dabei immer auch der Sicherheit des rechtmäßigen Karteninhabers.Seitens VISA-AUSTRIA wird aufrichtig bedauert, dass die dargelegte, korrekte Vorgangsweise der Firma Meinl aus Ihrer Sicht eine Verletzung Ihrer persönlichen Gefühle darstellt. Wir können Ihnen versichern, dass dies weder im Sinne des weltweit renommierten Unternehmens Meinl ist - noch im Interesse von VISA-AUSTRIA liegt.Für etwaige Fragen stehe ich Ihnen gerne zur Verfügung und verbleibe mitmit freundlichen Grüßen 長いので要約するが、 「今までのあなたとマインルとのやりとりを拝見すると、マインルの従業員が署名のチェックについて行った行為は、クレジットカードの利用に関して当社との契約上マインルに課された義務に全く即しているものであり、同時にVISAインターナショナルにおける慣習において何ら違反しているものではない。カードの厳しいチェックは、カードの利用者の安全にも寄与するものでもある。 しかし一方で、マインルによる取り扱いがあなたの観点からすればあなたの感情を著しく害したということは、VISAにとっても非常に残念である。私たちは、この発言が”世界的に有名な企業であるマインルの利益のためでも、VISA-AUSTRIAの利益のために言っている訳ではないことをあなたに保証することができる。質問があればなんなりとどうぞ。」 こういう内容である。まあ手数料を直接徴収しているマインルに対してVISAが批判的な発言をする訳がない。ここで興味深いのは、単にコピーを送っていたVISAが、この段になって私にメールを送ってきた真意である。考えられるのはマインルが手を回したのか、あるいはVISAがこれまでの経緯を見てたまりかねてメールを送ってきたのか、いずれかのような気がする。VISAに対して直接マインルと私の問題を仲裁するように私が頼んだ訳ではないので、わざわざここでマインルと私のもつれた交渉に割って入ってくるVISAは、何らかの意図があると言わざるを得ない。こんなところで割って入ってきても面倒を背負い込むだけだからである。 それを探るために、私はVISAに次のような内容のメールを送った。「私は私がマインルに対して要求した質問にマインルが不誠実にも全く回答していないにも関わらず、あなた方が私たちのやりとりから何らかの判断を下すことができたということは信じられないことである。VISAは、この件に関してどのような事実認定を行って私に対して上記のような意見を送ってきたのか、説明していただきたい。そして次のことは、VISAの規約に適合しているのかどうかお知らせいただきたい。1)店舗の従業員は、顧客を公衆の面前で犯罪者扱いすることが許されているのか?2)店舗の従業員は、顧客の許可無しにクレジットカードを顧客が関知しない所に持っていくことが許されているのか?」 こんな質問にVISAはまともに答えてこないかもしれない。というのも、こんなことが規約に当てはまらないことは当然であり、いちいちこんな当然の答えに答える必要があるとは思わないかもしれないからである。しかしあえて私がそのような質問をしたのは、VISAときちんと論理的な話ができるかどうかを判断するためである。答えがあまりにも当然であるかどうかは別として、こちらの質問に対して論理的な回答をする誠意を持っているかどうかを見たいのである。少なくともマインルはその誠意は持っていない。彼らに都合の悪いことは、一切回答しないから明らかである。 都合の悪いことに一切答えないことは、ヨーロッパ人の常套手段である。本当に昔から言い古されているが、彼らが謝罪する時は、謝罪しても取るに足りない時か、本当に自己の敗北を認めそれに対して責任を取る覚悟ができた場合である。特に後者については、実際はほとんど日本人がお目にかかることはない。もしマインルの店長が私に謝罪した場合、それは自分の無能さを認めた時であり、その後店内で昇進できなくとも文句は言えなくなるからである。このような環境の中で、ヨーロッパ人に誠実さを要求することなどは無理であり、誠実さなどよりも自己の利益が優先されるのである。例え自分が間違っているとわかっていても、絶対にそれは口にせず、相手からそこを突かれても徹底的にはぐらかすのが常套手段である。だからマインルの店長は、私のメールにのらりくらりと応じながらも、一切私の質問に答えようとはしない。自分の都合の良いこと、発言しても支障の無いことだけをこちらに伝えてくる。そこで思い出すのが、オーストリアの美術史美術館などに所蔵されているナチス時代に没収されたユダヤ人の所蔵であった美術品の扱いである。ナチス政権の成立以前、ウィーンに住んでいたアメリカ在住のユダヤ人は今なおオーストリア(当時はナチスドイツに併合されてはいたが)に没収された美術品の返還を要求しているが、しかしオーストリアはのらりくらいと回答を引き延ばしにして誠実に答えようとはしない。それについてあるオーストリア人は次のように私に言っていた。「それは小国になったオーストリアの知恵なんです。時間が過ぎれば年寄りはみんな死んでしまい、みな美しい過去になるでしょう。」と。それがオーストリア人であり、ヨーロッパ人である。彼らに誠実さを求めるのは私の他の経験からしても非常に難しいと思う。 VISAの担当者の文面は、ドイツ語のレベルから考えてもマインルの店長よりも数段教養のある人間の文章である。だからきちんと答えてくるかどうかは五分五分のところであろう。ただ当然マインルに肩入れして私を宥めるためにメールを送ってきたのであるから、こちらとしてもその部分については油断はできないところである。とりあえず、VISAの担当者からの回答を待つことにしたい。 ただ最近気になるのは、再びオーストリアは民族主義的な傾向が見え隠れしているところである。まずオーストリア国内の難民を強制的に軍隊の兵舎に収容する案が出ていることから始まり、トルコのEU加入を巡って先週、首相シュッセルがオーストリア国内で国民投票をする提案を行った。これはトルコのEU加入について国内では反対世論が強いことを見越して、EU内での一定の発言権を確保しようとする狙いとさらとスケープゴートを作ることによって国内での求心力の回復を狙ったものであるという観測も流れている。とにかく国民投票を行った場合、トルコ人への差別的な意識が嫌がおうでも強まることは間違いない。