前門の虎、後門の狼　<年子を抱えて>

大晦日の夜、一人暮らしの伯母が急死したため、
私の両親（本家）は元旦の朝から てんやわんやの大騒動だった。

関係者と話し合った結果、通夜も葬儀もしないという。
伯母は、20年ほど前に亡くなった夫の姓になってはいるものの、
そちらの親戚とはつきあいがないらしい。
何でも、昔 借金をしたのでかかわりたくないと言われているとか。
火葬のみにして、きょうだいだけで見送ることにしたらしい。

４・５日、私は両親とともに長野のログハウスに行く計画を立てていたが、
葬儀では父が喪主になるだろうし、こりゃ行けそうにないなと諦めていた。
スキーを心待ちにしていた子どもたちにも、たぶん行けないだろうと話した。
ところが、そういうわけで、火葬も済ませたので、
雪山計画は大丈夫だと 母から電話があった。

母の声は疲れていた。無理もない、倒れている伯母の第一発見者だったのだから。
大晦日の夜、電話しても出なかった。最初は、もう寝たのかな、と思ったらしいのだが、
元旦の朝、伯母の家の近所に住む人から「○○さんに電話しても出ないんだけど、
どこかに出かける予定でもあるのか、何か聞いていませんか」と電話がかかってきたので、
もう一度 伯母に電話した。やっぱり出なかった。
これは何かあったに違いない、と 母はすぐに伯母の家までかけつけた。

玄関の鍵は閉まっていた。しかし、脇の窓から、部屋の電気がついているのが見えた。
テレビもついていた。ハロゲンヒーターがついているのも見えた。
「お義姉さん！」と大きな声で呼んでも返事がない。窓を叩いても返事がない。
玄関がダメなら、鉄工場のシャッターは…と、ダメ元でそちらを開けたら、開いた。
シャッターのほうから中に入り、鉄工場を抜けて住居へ。
戸を開けると、こたつに潜ってぐったりしている伯母がいた。
耳元で声をかけても反応がない。足を触ったら、冷たかった。
すぐに父を呼んだ。父は「脈がない」。既に体は硬直していたようだ。

母が最後に伯母に会ったのは、27日の夕方だったという。
その日も、おかずを持って伯母の家を訪ねた。
最近は寒さのせいか体調を崩しやすいようなことを言っていたが、
特に変わった様子はなかったらしい。
市民病院から来た医師によれば、死亡推定時刻は大晦日の夜８時頃だろうとのこと。

週に１度、おかずを届けに行っていたが、いつも鉄工場でやりとりしていたので、
奥にある住まいのほうへ母が足を踏み入れることはなかった。
しかし、なんだか汚いようだとは薄々感じて、気にはなっていたという。
おかずを届けることはしても、まさか掃除までしてあげるとは言いにくくて
そこまでは立ち入らなかったが、今回、住まいに入ってビックリ、
そこはテレビで見るようなゴミ屋敷だったという。
さらに、かなりギリギリの生活で、水道は止められていたらしい。

母は「なんかね…言葉が出なくてね。かわいそうな人だよね」。
そしてこう続けた「独居老人が死後何日も経ってから民生委員に発見されたなんて
よくある話でしょう。伯母さんも、誰にも看取られない孤独な最期だったけど、
12時間後には発見されたわけで、それだけでもまだ救いだった。
車で５分とかからないところに私たちがいるのに、
全然つきあいがなくて いつまでたっても発見されないんじゃ気の毒すぎるもの」。

毎度ながら、本家の嫁として 母はよくやっているなと感心する。
祖父は糖尿病で、食事を作る母はものすごく気を配っていた。
祖母は祖父の介護を母に丸投げして自分は遊んでいた。
祖母は鬼のような姑で、母はさんざんいじめられたにもかかわらず、
文句一つ言わず甲斐甲斐しく介護にあたっていた。
祖母は認知症がかなり進み、●をもらしたりもしたから、本当に母は大変だった。
近くに住む親戚は、わがままな祖母を嫌って誰も寄りつかなかったのに。
祖母が亡くなったら、気が緩んで３kg太ったと笑っていた母。
そして今度は、一人暮らしの伯母のために、おかずを持って訪問とは…。
伯母の中では一番口うるさくて、母としては苦手な相手だったのにな。

「いつまでも恨んでいても仕方がないし、過去のことはもういいのよ。
それより、今 自分にできることをするだけ」。
すごいな。私は、そんなふうに人を許せるだろうか。