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2012.01.20
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カテゴリ:読書
 

kawanobu日記/ウイルス像を一変させる刺激的書物『破壊する創造者』を読む(第1話);ジャンル=生物学、読書 画像1

 

kawanobu日記/ウイルス像を一変させる刺激的書物『破壊する創造者』を読む(第1話);ジャンル=生物学、読書 画像2


 久しぶりに刺激的な本に出遭った。実は今からちょうど1年前に出た本だが、知人が献呈してくれたものを、遅まきながら読むことになったのだが、興奮のうちに読み終えた。

◎読了まで2週間もかかった重厚な好著
 ただ常人と違って、一気呵成に1、2日で読めたのではない。重要な本は、時にはメモをとり、あちこちに書き込み、マーカーを入れ、時には前に戻って読み返したりするので、本文411ページの本に暮れから年明けまで、実に2週間近くかかってしまった。
 その書名は、『破壊する創造者 ウイルスがヒトを進化させた』(フランク・ライアン原著、夏目大訳、早川書房、写真上)である。副題は、ちょっと目を引こうと編集者がつけたものだろうが、一言で言えば、ウイルスが生物進化と生物の営み、疾病などにいかに重要な役割を果たしているかを、世界中の研究者に丹念にインタビューし、かつ自身も研究してまとめた書である。

◎進化に果たしたウイルスの役割が我々のゲノムに残っている
 01年2月にヒトゲノムの解読が一通り終わって明白になったことだが、例えば約30億塩基対から成る長大なヒトのゲノムのうち、レトロウイルス(RNA1本鎖ウイルスで、逆転写酵素を持つもの)由来と思われる配列が43%もある、と聞けば、仰天するだろう。さらにレトロウイルスの感染した明確な痕跡がゲノムに残されているが、それが30億塩基対の約9%も占めていることも、オドロキである。なおレトロウイルスについては、次回に述べる。
 ゲノムにたんぱく質合成がコードされた遺伝子は想定より少ないたった2万ほどと分かったが、それは長大なゲノムの1.5%ほどの配列を占めているにすぎない。
 遺伝子重複で増えた分はもちろんあるだろうが、この事実は、他の動植物も含めて、我々ヒトは太古から常にウイルスに攻撃され、そしてそのウイルスに侵入されて進化してきたことを示すのである。

◎難しい自然科学の最先端をいかに一般読者に伝えるか
 その他、記述されている最新研究成果は、リブパブリの想像を絶するほどのウイルス・パラダイスの現実だった。それを驚くべき筆力で、ぐいぐいと読む者を引きずり込ませる。ちなみに著者のフランク・ライアン写真下)は、イギリスの本職は医師で、進化生物学にのめり込んでそちらでも学術論文を書く異能の研究者だ。
 自然科学は難しい。奥が深く、しかも理解に際してとんでもなく深い基礎知識を要することが多い。しかしそれでも、科学の発展は多くの納税者の理解に支えられている事実を踏まえると、科学を優しく一般大衆に説明することは必要不可欠の作業だ。でなければ科学技術は、「2番目でダメなんですか」というアホな政治屋のエモーショナルな主張に引きずられて衰退するだろう。
 リブパブリが思うに、自然科学の一般的啓蒙書の出版手法には2通りある。専門研究者が一般の人にも分かりやすいように書いたもの、もう1つが優れたサイエンス・ライターが研究者たちの成果を噛み砕いて書いたもの、である。それぞれに、一長一短がある。

◎サイエンスライターにも専門家はだしの人も
 前者が最先端研究レベルをダイレクトに伝えるだけに望ましいが、えてして独りよがりとなりがちで、中にはとうてい読むに耐えない代物もある。筆力は劣り、編集者がいくら構成プランを描き、書き換えを依頼しても、ダメな物はダメ、ということだ
 後者は、研究成果をよく咀嚼して提示してくれるが、時には水で割ったウイスキーのようなものにはなり、深みに欠けることがある。
 ただ例外もいて、例えばリブパブリが一目も二目も置くサイエンスライターの1人として人類学、進化動物学ではほとんど専門家の領域にまで達したロジャー・ルーウィンがいる
 また進化生物学のサイエンス・ライターとして名高いイギリスのマット・リドレーは、動物学でPh. D を持つけれども、この系列に置いてもいい。彼の『赤の女王』は、進化生物学への目を啓かせてくれた。

◎専門家がサイエンスライター並みの筆力で一般に訴えるのが最善
 第3が、これこそ最善なのだが、説明能力に長けた研究者自身、あるいは周辺研究者が、分かりやすく、そしてこれが最も重要なのだが、読む者をワクワクさせるほど面白く、啓蒙書を書くことだ。ただし、プロのサイエンスライター並みの筆力で説明できる研究者は少ない。
 リブパブリが思い出すだけでも、『コスモス』で宇宙を分かりやすく魅惑的に書いた天文学者の故カール・セーガン、進化や文明の成り立ちや構造を見事な説明力で描いジャレッド・ダイヤモンド、古生物学と進化の奥深さを巧みな隠喩などを織り込んで説明したスティーヴン・ジェイ・グールド、最新進化生物学を徹底したダーウィン主義の観点で具体的・ヴィヴィッドに説明してくれたリチャード・ドーキンス程度しかいない。
 これらは研究者がなしたもので、欧米の科学者には少なくない。

◎科学者で優れた名著を出す「発信する科学者」の系列に連なる
 どうでもいいことだが、SF『コンタクト』まで手がけた故カール・セーガンの最初の奥さんは(彼は3度、結婚した)、昨年11月22日に死去した偉大な生物学者のリン・マーギュリスである。今、評価すれば、奥さんのリン・マーギュリスの方が優秀だった。
 彼女は、我々真核生物に住み着いて宿主にエネルギーを供給しているミトコンドリアと、植物体(と一部動物)に住み、光合成で宿主に栄養をもたらしている細胞内小器官が、大昔は別の細菌で、それが真核生物細胞内に入り込み、共生関係に入ったと、初めて提唱した偉大な生物学者である。むろん本書にも、リン・マーギュリスの名は、頻繁に登場してくる。
 本日記で何度も取り上げた進化生物学者・古生物学者、故・スティーヴン・ジェイ・グールドは、エッセイストとしても超一流の著述家だった。リブパブリは、すべて早川書房から翻訳刊行されているグールドの著作をネタに、よく日記を書いたものだ(下記日記一覧参照)。
 そして本来は生理学者なのに、鳥類研究から、最近は文明論にまで手を広げるジャレッド・ダイアモンドの知性は、その後の著作『銃・病原菌・鉄』でもいかんなく発揮されている。ダイアモンドの『人間はどこまでチンパンジーか?--人類進化の栄光と翳り』(長谷川真理子・長谷川寿一訳、新曜社)は、リブパブリは2度も読んだ。
 本書『破壊する創造者』のフランク・ライアンも、間違いなくその系列に加わるに違いない。
(この項、続く)

☆グールド関連の日記
・11年11月4日付日記:「スティーヴン・ジェイ・グールドの絶筆本の時代遅れ?の遺憾」
・11年11月1日付日記:「捏造1世紀半、教科書にも流用され続けた有名な発生図」・10年4月19日付日記:「科博の『大哺乳類』展で見たパンダの『偽親指』と進化の考察:食肉目、特殊化、系統的制約」
・09年6月5日付日記:「さらに連続試合安打記録を伸ばしたイチローもディマジオに及ばない数学的結果:スティーヴン・ジェイ・グールド、向井万起男」

昨年の今日の日記:「中国で、なおメラミン汚染粉ミルクが流通していた! 『催乳師』は引っ張りだこ」





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Last updated  2012.01.20 06:23:12



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