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2023.04.16
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カテゴリ:読書
 高安犬(こうやすいぬ)という絶滅した日本在来犬種が、かつて居た。山形県東置賜郡高畠町の高安地区で飼われていた日本犬の一種だ。

​◎戸川幸夫が旧制山形高校在校時に出合う​​
 狭い地域の猟師(マタギ)に飼われていた狩猟犬の高安犬は、昭和初期に絶滅してしまい、今は血統は絶えている。しかしこの犬について知りたいと思い、以前、動物作家の戸川幸夫(1912年~2004年)が『高安犬物語』を書いていたことを思い出し、図書館でリクエストして取り寄せた。
 届いた新潮文庫は、紙がすっかり赤茶け、奥付を見ると昭和62年の41刷とあった。活字も、現在の文庫本と大きな活字と違い、虫眼鏡で見るような小さな文字だった。高安犬と同様に、戸川幸夫の『高安犬物語』も絶滅しそうであった。
 本書『高安犬物語』は、戸川の処女作で、直木賞受賞作でもある。旧制山形高校生時代の著者戸川(作中では田沢という名)が、話に聞いた高安犬を探し、米沢周辺を歩き回り、やっと出会えた高安犬「チン」に出会え、そしてチンと過ごし、最後はチンの死を迎えるノンフィクション的な小説である。

​◎ピンと立った耳、犬張子のように張った胸、逞しく巻き上がった尾……​
​ チンは、田沢が夢にまで描いた理想の高安犬だった。絶滅に瀕している犬種を何とか目にしたい、残したいと山里を歩き回り、初めて本当の高安犬「チン」の姿を見た時の印象を、次のように描いている。「ピンと立った耳、犬張子のように張った胸、逞しく巻き上がった尾、キッと正面を見据える刺すような瞳」(写真)。

 農道で偏屈なマタギの吉蔵に飼われていたチンを初めて見た時、田沢はこれが探し回っていた高安犬だと分かる。しかし吉蔵は、最初は話しかけても返事もしてくれない。山形市内から何度も通って、吉蔵と焼酎を酌み交わしてうち解け、やっと吉蔵からチンを譲り受ける。

​◎宮城、福島の山中を彷徨し、元の飼い主の吉蔵の家に戻る​
 チンは、吉蔵の厳しい訓練で洗練された優れた猟犬だったから、都会の山形に連れられていくと、食物も摂らないほど殻にこもってしまう。そして絶食状態のままつないでいたチンをある日、不注意にも放すとあっという間もなく逃げ出してしまう。
​ 田沢と飼育に協力してくれたパン屋の木村屋は、八方手を尽くして探すが、行方は分からない。新聞広告も出した(写真)。


 何とチンは、数週間もかけ、かつて吉蔵とツキノワグマを求めて歩いた宮城、福島の山中を彷徨した後、和田村の山の端にある吉蔵の小屋に戻ったのだ。
 その後、吉蔵に連れられて再び田沢のもとに戻ると、少しずつ馴れていく。

​◎後世に姿を残すべく剥製作りに出すが​
 田沢がチンをこれほど愛したのは、もはやただ1頭だけになっていた高安犬の仔を繁殖させ、少しでも血統を残そうと願ったからだ。ポリップを患っていると知ると、麻酔無しで手術を受けさせたりと手を尽くすが(チンは暴れも、吠えもせず痛みに耐えた)、ついに仔を産ますことは叶わず、老犬になったチンはやがてイヌフィラリア病で死ぬ。
 高安犬繁殖の夢を絶たれた田沢は、木村屋と語らって最後の1頭となったチンの剥製を作って後世に残すことにするが、山形県一の剥製師に託した剥製は、チンとは似ても似つかない姿になりはてて戻ってきた。

​◎故郷の高安の地に埋葬​
 終章は泣かせる。無残な姿になりはてた剥製はこの世に残すべきではない、それなら故郷に戻し、吉蔵の家のそばに埋葬したやろう。「チンがその一生を懸け、どこよりも愛していた土地に、いまこそ返してやらなくてはならない。野性の土から生れ出たこの熊犬は、やはり野性の土に戻してやらなければならない。そこにチンの魂の安息があるに違いない(原文のママ)」。
 真に動物好きの著者だけに書ける哀惜に満ちた文章である。
​​ かくて僕たちは、今は高安犬の姿をわずかに残った写真でしか見ることができない(下の写真の上=僕の読んだ新潮文庫とは別版の本の表紙)。また高畠町にある「犬の宮」の狛犬は、高安犬を象ったものと見られる(下の写真の下)。​​



昨年の今日の日記:「ロシアによるウクライナ侵略が中立貫いたフィンランドをNATO加盟に向かわせる;ロシア黒海艦隊旗艦の『モスクワ』撃沈https://plaza.rakuten.co.jp/libpubli2/diary/202204160000/​





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Last updated  2023.04.16 05:09:26



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