もういちど名前を呼んで 記憶は死なない
国立天文台天体ギャラリーより , 宇宙神秘の美 「渦巻き銀河M63」深遠なる大宇宙のほんの一部ですが、何千億個もの星たちが集まって形成されています。どんな宝石より美しい!夏の暑さも束の間忘れて見とれてしまいました。 小説「もういちど名前を呼んで」 真紀子は、A4のコピー用紙にプリントされた文章を目で追っていて、柚子がアンダーラインを引き終えると頷きながら言った。「そう、それでいいわ・・・このコピーは柚子が持ってて。裏返しにして、その辺に置いとけばいいわ。後で説明する時、いまのが一番上になるように・・・」柚子は言われたとおり、コピーを裏返して膝の横に置いた。 「じゃあ、次はホーキング博士の量子宇宙論ね」 柚子は面食らっていた。アインシュタイン博士の次がホーキング博士である。この二人はどちらも20世紀を代表する偉大な物理学者である。いかに柚子が理数系に弱いと言っても、この二人の名前は聞いた事がある。 そして親友の真紀子がこれから、この二人の偉大な物理学者の難解(絶対そうに違いない)な理論を使って柚子と浩二の謎を解き明かすと言った。(本当に私に理解できるの?)なんだか柚子は咽の渇きを覚えた。 「真紀子、悪い!何か飲んできていい?咽がカラカラなの・・・」「緊張してるのね・・・いいわ、私にも何か頂戴」「野菜ジュースか牛乳だけど・・・あ、あと天然水があったと思うけど」「じゃあ、私は天然水をもらうわ・・・無かったら牛乳ね」「分かった、すぐだから・・・」 だいたい2分が過ぎた頃、柚子が戻って来た。右手に天然水のプラスチックボトルを下げ、左手にはグラスが2個、指が長いとこんな時、便利だ。 「あら、今日は野菜ジュースじゃないのね?」真紀子の問いに笑顔を返しながら、柚子は言う。「グラス、取って」柚子は返事を表情で返すのが得意で、真紀子はもうすっかり慣れてしまっている。真紀子のグラスに天然水を注いでやると、柚子は自分のグラスを満たし、2度、飲み干した。 「さあ、再開よ!ここからは一気にいくわよ、柚子。いい!?」「O・K!どんどん・・・・・お手柔らかにね・・・」「何、それ!・・・ま、いいわ。あなたの発言にいちいち疑問符をつけてたら、終わらないから、気にせず進めちゃう」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」「ホーキングは・・・・・ここと、それから・・・・・ここね、あ、ここも引いといて」 柚子がアンダーラインを引き終わると、即、真紀子の講義が始まった。彼女の講義にタイトルを付けるとしたら、それは 「記憶は死なない・・・・・いのちは一種のエネルギー」・・・であった。