貫井徳郎「神のふたつの貌」の名言
痛みとは、想像力の産物かもしれない。おそらく蛙は、自分に向かって振り下ろされるかもしれない石を見ても、それがどういう結果を生むか想像できないのだ。「人間、立派になろうなんて思っても、ろくなことにならないですよ。なるようにしかならない。そうじゃないですか」「信仰は熱烈であればあるほど、盲目的になってしまう危険を孕んでいる。盲目的な信仰は、他人にそれを伝えようとして思いどおりにならないとき、極端な手段に走る」延命の努力を図る医者には感謝を覚えるが、しかしどこか白々しい思いを拭いされない。死にゆく者を静かに旅立たせてやりたいと、早乙女は傍観しながら思う。人は常に周囲との摩擦を抱えて生きて行く。自殺を選ぶ者はまだ、気力が残っている人だ。心底絶望した者は、能動的に何かをなす力すら持ち合わせていない。人の一生は、小さな輪の輪廻だ。ひとつひとつの輪の形は違っても、いずれ同じリズムが生まれる。だから人は、己の血を残したがる。神のふたつの貌