名作落語大全集

「さて、夕べの話ですが……」
「うん、家を追い出されるという問題じゃな」
「家を探さなくていいんですか」
「もう一度録音を聞いてごらん」
　　
「もう半年も払ってないでしょ。困るんですよ」
「でも、お金がなくって」
「しょうがないですね。もう、今までの家賃は諦めますから、今月いっぱいで出て行って下さい」
「こんな年端も行かない私を追い出すんですか」
「50過ぎのおっさんでしょ。とにかく今月末までということでお願いしますよ」
「……ううん……大家さん、もう一つきいてもいいですか」
「いいですよ、何です」
「来月の家賃はどうするんです」
「何を言ってるんです、半年分を諦めたのに……来月分は関係ないでしょう」
「関係ないって……払わなくってもいいんですか」
「もちろんですよ」
　
「分かったか」
「発音が違いますね」
「そう、『もう一つきいてもいいですか』というのが、『もう一つ聞いてもいいですか』ではなくって、『もう一月居てもいいですか』なのじゃ」
「ずるい」
「しかも、その後の会話も大切じゃぞ」
「どういうことで……」
「ほら、今月までの家賃はもういらないというだけでなく、来月の家賃もいらないということを、大家さんがはっきり言っている。来月まではタダで住んでいられる」
「……ひどいね」
「そういう訳で、その先のことはゆっくり考えよう」