テーマ:謎を解く(186)
カテゴリ:謎を解く
「そういえば……こんなタイトル、前に見ましたねえ」
「ついそのままになっちゃって」 「いつもそうだ……それで、改めて最初からやり直そうってんですか」 「そういうこと」 「しょうがないねえ……」 「もうすぐ正月が来るなあ」 「大家さんは年中おめでたいですが……」 「毎年正月になると『百人一首』てのが持ち出される」 「ありますね」 「わしは、人より先に物に手を出すのは失礼だという教育を受けて育ったし、歌留多を取るよりも歌について考察をするという教養の深さゆえ、取り合いに勝ったことがない」 「……まあ理由はともかく、そうですか」 「もっとやっかいなのは、わしが国語の先生をしていたというあらぬ噂を立てられたばかりに、こういう会に行くと必ず、何か『百人一首』の話題を求められる」 「無駄なことですねえ」 「『先生、この歌はどこがいいんでしょうね』なんてね……こういう時だけ先生になる」 「どう答えているんです」 「『当時はこういう作風を好んだのでしょうね』とか、『見る人が見ればいいのでしょうね』なんてお茶を濁している」 「しかし、事実として、あまり面白いとは思えない歌が入っていることも事実じゃな」 「そうですか」 「もっと困るのは、『何か面白い話はありませんか』みたいな問いかけじゃ」 「そういう時は何を話すんです」 「誰でも知っていること……小野篁や安倍仲麿の歌が詠まれた経緯とか、兼盛と忠見の歌合わせの話とか……場合によっては作者の逸話なんかを話すようにしている」 「大家さんにしてはまともですね」 「まあ、馬が合わない人が多いなって時は、 『夏の夜は』の作者・深養父の孫が、『契りきな』の元輔で、その元輔の娘で『夜をこめて』を詠んだ清少納言は『枕草子』の作者として知られていますが、その姉の夫が、『なげきつつ』を詠んで『蜻蛉日記』も書いた道綱母の兄弟で、その姪に当たるのが『更級日記』の作者・孝標女だが、この人は『百人一首』には採られていない。この人のお父さんである孝標にも何人も妻がいるが、その一人の伯父さんが結婚した相手が『有馬山』を詠んだ賢子。その賢子の母親が『めぐりあひて』を詠んで『源氏物語』の作者としても有名な紫式部ですよ…… なんて、系図を延々と話してやるんだ」 「……嫌がらせですね」 「これは相手がどこまでつきて来られるかを見ていると笑えるぞ」 「悪い趣味」 「まあ、とにかく、『百人一首』とは何を基準に選ばれたのじゃろう。さっき言ったように、お粗末と感じるような歌も含まれている。名人の名歌を選んだのだとすると矛盾を感じずにはいられない。まして、天智天皇や人麿の歌は、実は詠み人知らずだという……選者の時代にはそれぞれの作品と思われていて、定家も疑わなかったというが、定家といえば研究科としても有名で、調べなかったはずはない」 「じゃあ、歌に詠まれた場面を選んだ」 「それもおかしい。似たような場面が多すぎるのじゃ。竜田川が幾つかあったり……まあこのお陰で歌留多取りは面白くなったのだろうが……」 「何を目的に作られたのでしょうね」 「その謎を少し解明してみよう」 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007.10.28 05:22:14
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