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「樋口一葉の作品の舞台を中心に、千住からぶらぶらと歩いて参りました」 「はい、今回は」 「安楽寺。前々回紹介した三島神社から280メートルしかない。三島神社から小野照崎神社を経て鬼子母神へ回るコースもお勧め」 「いいですね。で、こちらも文学の舞台ですか」 「池波正太郎の『その男』の主人公、杉虎之助がこの隣に住んだ。鬼平の『密偵』で、『下谷・坂本三丁目の一膳めし屋[ぬのや]の亭主である弥市は……』とあるが、安楽寺から小野照崎神社を越えて行く方向が坂本三丁目」 「へえ」 「ということで、御行の松へ向かおう。その手前にあるお店」 「あら」 「半纏など作っている、落語ファンにはお馴染みのお店じゃ」 「いいですね」 「さあ、こちらが御行(おぎょう)の松不動尊」 「松ですか」 「左に見えるのが、現在の松で、三代目じゃ」 「へえ」 「本堂。こちらは江戸名所図会に紹介され、安藤広重の錦絵にも描かれた。樋口一葉の『琴の音』、志賀直哉の『暗夜行路』に登場する。案内では岡本綺堂の作品にもというが、申し訳ないが思い出せない」 「年ですから」 「二つの作品も、40年前に読んだ記憶だけで書いているので、違ってたらゴメン」 「読み直しなさい」 「これが初代の松。1928(昭和3)年に枯れてしまった。周囲4メートル、高さ13.6メートル、樹齢350年という。戦後植え替えようというので根を掘り起こしたのじゃ。それで不動尊を彫った」 「それで御行の松不動尊というんですね」 「二代目は昭和31年に上野中学校から移植したが、これもすぐ枯れてしまった。現在の三代目は昭和51年8月に植えたものじゃ」 「はい」 「こちらが正岡子規の句碑。浅草から上野にかけて各所に同じ碑を建てたのじゃが、明治の頃にブームがあって、子規は句碑を作るのに否定的だった。どんな気持ちで自分の句碑を見ているのじゃろうなあ」 「と言いながら、ちゃんと回って写真を撮っている大家さんです」 「これはすでに紹介済み。 薄緑お行の松は霞けり という句。他に、 松一本根岸の秋の姿かな 青々と冬を根岸の一つ松 遠くから見えしこの松氷茶屋 などの句がある。これも記憶で……」 「確認しなさい」 「落語の『お若伊之助』でここに因果塚が出来たというが、実は無い」 「あら、残念」 「そう、残念なので、地元の落語ファンがここにこんなものを作った。狸塚」 「洒落ですね」 「まあ、人間が狸を生むというのはあり得ないな……ただ、最近原作を見つけたら、生まれたのは人間の子で、これからその因果が語られ、お若は伊之助と再会して悲劇に……という展開になるようじゃな」 「へえ」 「ということで、後は正岡子規の住んでいた家と、中村不折を訪ねよう」 「はい、次回に続く」 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2013.03.02 05:09:32
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