名作落語大全集

「ぢい散歩、上野へ参りました」
「さあ、今日はどこへ」
「上野の森美術館。金澤翔子さんの書道展じゃ」
「この人は……」

「ダウン症の天才書家と紹介されているが、それは嘘じゃな」
「違うんですか」
「彼女は天才ではない、努力の人じゃ」
「努力してこれだけの字が書けるようになったということですか」

「こちらはお正月、ここで初日に書いたもの」
「いい字ですね」
「除夜の鐘の直後に一つ書いたというから、今年二つ目の書ということになる」
「はい」

「気に入った文字をもう一つ」
「力強いですねえ」

「太宰治記念館での書道展も評判になったな。こちらは上に『斜陽』、下に『津軽』の一部が見えるが、太宰作品の題名を書いたもの」
「人間失格ですか……大家さんにぴったりの言葉ですね」
「そうほめるな」
「ほめていないって」

「今年の葉書」
「午年ですものねえ」

「さあ、こちらもお馴染み、西洋美術館へ参りましょう」
「はい、三月に一度は来ております」
「庭にあるカレーの市民。毎回一人ずつ顔を紹介してきた」
「どうでもいい企画でした」

「今回は特別」
「二人目ですか」
「実はムンクの版画を見たかったのじゃ。それがこの日は休室だといわれたので、来月出直すことにした」
「はい」
「さあ、上野のお散歩はまだまだ続きます」
「また次回」