テーマ:謎を解く(186)
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「さあ、ベルリオーズがローマ大賞に挑戦するが……」
ベルリオーズ:2「四つの落雷」 コンクールに全力を投入したベルリオーズ、蓄えを使い果たして、一八二七年の元日には水一杯とパン一切れしか口にしなかったという。 さあ、この年、二度目のローマ大賞挑戦である。前年の応募履歴によって参加が認められ、予選を通過した。本選の審査員はケルビーニ、パエール、ボアルデューという古い大家ばかり。新しいベルリオーズの音楽に嫌悪を示し、演奏不能ということで、最初から落としてしまったのである。 「新人をおそれ、排斥しようとする大家たちのエゴイズムのために、まるで新人を絞め殺すような教育制度の不合理を、わたしはこのとき初めて知った。」(自伝より:以下同) こうして反骨精神を身に付けるのと同時に、芸術に影響する四つの衝撃が彼を襲う。 「芸術家の生涯には、ときには落雷のようなショックをつぎつぎに受けることがある。それは、あたかも大暴風雨が雷雲をよび突風をまき起こすのに似ている。」 ローマ大賞に二度目の挑戦をした一八二七年の九月六日、パリのオデオン座でシェークスピアの「ハムレット」を見た。イギリスの劇団が上演したもので、まだフランスでは知られていなかったのだ。この芸術性は大きなショックを与えた。 第二のショックは、主演女優のスミッソンであった。オフェーリアの魅力にまいったベルリオーズは数日後、今度は「ロミオとジュリエット」を見た。ロミオに抱かれるジュリエットを見た瞬間、彼は獰猛な叫び声を上げて場外に飛び出して行った。 彼女の方もこんな様子の男に気付かぬわけがない。警備員にこっそりお願いしていた。 「あの、怪しい目つきをした変な男に気を付けてね。」 この恋の行方は作品につながるので、また後で。 第三のショックはその二ヶ月後のことだった。ゲーテの「ファウスト」である。ネルヴァルによって訳されたフランス語版である。 「この霊妙な物語は、わたしを幻惑した。わたしは、それを瞬時も手放さなかった。食事のときも、劇場にいるときも、また、通りを歩いているときも、わたしは読み続けた。」 またしても他を忘れる熱中ぶりである。 それから更に三ヶ月、今度はベートーヴェンの作品に出合った。 「『ファウスト』を読んでから三ヶ月後に、こんどはベートーヴェンから鉄槌をくらった。序曲「エグモント」や交響曲第五番にうちのめされたのである。 「生命力が倍加されたのか……わたしの血潮は異様に高鳴る。激しい動悸、涙……、筋肉は収縮痙攣し、体がわなないて、手足は完全に麻痺する。視覚と聴覚の一部が意識不明におちいって、なにも見えなければ、ほとんど聞こえもしない。なかば神気もうろうとして……目まい……」 彼の自伝はいつもこの調子で興奮状態である。ただ、そのままとることは出来ない。自伝も創作なのだから、読んでいて面白くなければ誰が読むものか。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2016.11.26 20:30:59
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