テーマ:謎を解く(186)
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「ベルリオーズが管弦楽においてロマン派の基礎を作った。同時にパガニーニは器楽の基礎を作った。この二人の出会いに向けて……その前にパガニーニをご紹介。パガニーニは伝記をまとめているので、いずれここで取り上げるじゃろう」
ベルリオーズ:18「パガニーニ」 とにかくパガニーニの人気はすごいものだった。ウィーンでは普通の五倍のチケット代を提示して関係者が止めた。「ウィーンでは音楽はみんなもの。そんな値段では客が入りませんよ」と。ところがこの言い方にカチンと来たパガニーニ、それならと十倍で売り出し、全演奏会が立ち見まで出る超満員だったというのだ。 ヴァイオリンのテクニックが素晴らしかった。美しいメロディ、素晴らしい展開の中で、想像を超えるテクニックを聞かせるのである。当時のヨーロッパではひがみから、テクニックばかりで音楽そのものは中身がないと評され、今でもそれが引用されることが多い。評論家は音楽を聞いていないのがよく分かる。日本では人気のラフマニノフも全く同じで、ピアノ技術は高いが、曲はチャイコフスキーの真似と言われる。中村紘子氏が演奏会で今度やりましょうと言ったら、ラフマニノフなんて何十年も演奏していないと言われたのも有名。 どんなテクニックだったのか。ギターの技法であるハーモニック、弦を軽く抑えることで2オクターブ高い、笛のような音を出す。二本の指で一音を出すのだ。これを二重音で弾くだけではない、伴奏にピチカートを入れる。左手の親指を使うのだ。この左手のピチカートも得意で、自分で曲を弾きながら左手のピチカートで伴奏をつける、ヴァイオリン・ソロのための二重奏なんて曲もある。尚、とんでもないのはハーモニックを三重音で聞かせる曲まである。 パガニーニ運弓という、半音階だが、一つ置きにスラーをつけたもの。これは不協和音で「悪魔のような」と表現された。 ある演奏会で、客席で譜面を起こした人がいる。ところが実際その譜面を演奏しようとしても出来ない。とても人間の指では届かないのだ。それから悪魔に身を売ったという評判が立ち、演奏会では貴婦人たちは次々に失神、演奏中に足が宙に浮いていたとか、影が悪魔に見えた途端に灯りの蝋燭がはじけ飛んだとか…… 死んだ後、そういう噂から数十年埋葬が認められず、死体がおかれた教会には、見物人が行列を作ったというのだ。 まず演奏家としてはそのようなとんでもない人だった。 これを聞いた若い演奏家はどう思うか……あまりに桁違いの技術に、これを目指すなんでとんでもない。ということで、シューマン、リスト、ショパン……みんなピアノに走ってしまうのだ。 シューマンの妻となるクララは、12歳の時に演奏を聴いて「パガニーニのアダージョに天使の歌を聞いた」と言っている。この頃、後に夫になるシューマンが、クララの演奏はテクニックは素晴らしいが、女性らしい細やかさに欠けるような批評をしている。 シューマンは超絶のテクニックを求めて指が動かなくなり、精神的にもおかしくなっていくが、パガニーニの影響がなかったとは言えない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2016.12.06 07:40:29
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