テーマ:謎を解く(186)
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14:ウォルフの話
私はエリーザ様の宮廷管弦楽でオーボエを拭いておりました。もちろん、パガニーニの弦一本の演奏の時も後ろで伴奏に加わっていましたよ。これはボナパルト・ナポレオン閣下のお誕生日を祝うので「ナポレオン・ソナタ」と呼ばれました。 私も体験したこともない大喝采でした。わーっという大歓声、「パガニーニ」コールが鳴りやまないのです。指揮をしていた楽長のガリも驚いて、同じ曲をアンコールすることにしたのです。アンコールも同じ反応でした。喝采が鳴りやまず、何と三回もアンコールで同じ曲を演奏したのです。 エリーザ様は二回目の途中で退席なさいました。パガニーニを陥れるのに失敗したから怒って帰ったのだろうって……違いますよ。余りの素晴らしさに失神なさったのです。ええ、前の「愛の二重奏」でもそうでしたが、これで失神が癖になってしまいました。一週間も続くと医者から忠告を受けましてね、このままでは命に関わるって……それでとうとうパガニーニをあきらめたんです。いや、形式的にはナポレオン家に仕えているのですから、追い出すわけにも行きませんのでね、妹のパウリーヌの方へ押し付けたんです。北イタリアで自由に演奏会を開いてよいという許可書も付けたのはエリーザ様にしては上出来ですね。 さて、妹のパウリーヌ様というのがまたとんでもない女で……ご存じない。彫刻士のカノーヴァが彼女の裸身像を作っているのを見たことがあるでしょう。エリーザ様よりもさらに美しさを極めた女性で、男たちのあこがれの的でした。何十人という男が求愛して……彼女の素晴らしさは、それをすべて受け入れたのです。十六歳でスタニスラフ・フレロンという男と恋仲になりましたが、彼が貧しかったためにボナパルト様がお許しになりませんでした。十七歳の時にナポレオンの戦友だったレクレルク将軍と婚約しますが、母親のジョセフィーヌ様とうまくいかないので早く結婚して自由になりたいと思っておられたのでしょう。 さて、結婚してみると、自分はこの男を愛していないことに気付きます。一人でパリへ出て次々にお相手を変え、しかもその相手を公式の場へも連れ出すので、陛下は後始末に苦労したそうです。ドミンゴで、黒人の革命騒ぎが起こると、レクレルク将軍に鎮圧を命じ、ついでにパウリーヌ様も連れて行くようお命じになったのです。 ドミンゴへ向かう軍艦に、かつての恋人フレロンがいました。よりを戻した……と思うでしょう。パウリーヌ様は彼には見向きもしなかったのです。だって、軍隊を連れているのですから、たくましい魅力的な男がいくらでもいるのです。その男達が求愛して来ますから、ね、彼女は嫌と言えない女性ですから。同行したパキスエ大臣が手紙を書いた中に、 「レクレルク将軍夫人の振る舞いは、熱帯特有の灼熱の太陽でさえ赤面せずにはいられないほどのものだった」 と記しています。 ※ ※ ※ MS48 ヴァイオリン協奏曲第2番 ロ短調 遺言により死後すぐに出版されたので作品7になった。第3楽章がかの有名な「ラ・カンパネラ(鐘)」である。作曲は1811年、第1番の直後に作ったという説、また、1826年12月12日の手紙に「クリスマスの後に鐘のオブリガードが付く第2番を演奏する予定」とあるから、これが初演だろうと考えてこの年完成という説まで、幅広くある。 1831年、20歳のリストが聞いて、2年度にピアノ独奏に編曲した。これはとてつもない難曲で、演奏されたという噂すら耳にしない。原曲のままニ短調で、もうこれだけでもピアノでは弾きにくい。フィナーレには「ベニスの謝肉祭」が使われ、終わりかなと思ったら、左右の手が次々に他方を飛び越えて鍵盤を叩き、全ての鍵盤を使う半音階、真ん中で両手のトリルを弾きながら上下に旋律が聞こえる、10度の和音を両手で連続で弾く……とまあ、好き勝手な技巧が150小節も続く。 4年後の改定では、変イ短調になっている。単純な旋律で、2オクターブ上に装飾音がある。これは左手で弾けばいいが、繰り返しになると、カノン風に旋律の追いかけっこが始まり、やはり装飾音もある。これは三本の手がなければならず、全打音で演奏する。フィナーレには協奏曲第1番のフィナーレがつく。 1851年に「パガニーニの主題による大練習曲」をまとめたのが今よく耳にする作品。誰でも弾けるように易しくしたものということになる。他にもヨハン・シュトラウス(父)がワルツに編曲するなど、色々な作曲家がアレンジしているが、リストのものが最も有名で、原曲より知られているかも知れない。ヨーロピアン・ジャズ・トリオの演奏や、ピアニスターHIROSHIとグローリューの遊びもリストの編曲がネタになっている。 第1楽章は自由なソナタ形式で、第1主題ははっきりしない。ニ長調に転じてからの第2主題が中心だが、友人だったロッシーニの「セビリアの理髪師」の序曲によく似ている。中間部では新しい主題が出て展開し、第2主題だけが再現されるのはパガニーニのスタイル。 第2楽章、ニ長調、アダージョ。のどかな管に導かれて美しい旋律が流れるが、その裏には厳しい感情が潜んでいるように思われ、第1番で説明したマリーニの悲劇を音楽にしたのがこの楽章だという説もある。最後には二重フラジオレットが聞こえる。 第3楽章が有名な「ラ・カンパネラ(鐘)」。印象的なロンド主題。中間部でソロのフラジオレットと管弦楽のベルの掛け合いが面白い。リストの編曲が素晴らしい出来で、ピアノ・ソロでその掛け合いを再現している。こちらの方が有名になり、ヴァイオリンでもこの楽章だけをピアノ伴奏で演奏することが多い。 1975年頃、本でパガニーニを知り、すぐにレコード屋で注文しようとしたら、2枚しかなく、片方は廃盤、メニューインのものを入手した。3番が出るまではそのくらい忘れられた作曲家だった訳だ。前に紹介しているが、メニューインのものは前奏を省略するなど、あまりお勧め出来ない。 その他何枚か持っているが、やはりアッカルドのものが定番。石橋尚子さんのカラオケ付(ピアノ伴奏、もちろん田中葵さん)のものもある。私はフルートでやるのであまりうまく行かないが、フルート用の楽譜もちゃんとある。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2017.02.23 09:48:57
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