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21:ジョージ・カルザスの話
英国領事館主催の演奏会か、もちろん行ったとも。あのパガニーニだぜ、そうそう聞くチャンスがあるとは思わないじゃないか。そう、もう聞いたと思うが、管弦楽が素人の寄せ集めでひどいものだった。客席が騒然となる中、パガニーニはたった一人で演奏を始め、聴衆を魅了しちまった。すごかったのはその後なんだ。 客席に協会関係者が席を占めていたが、観客がそれに詰め寄ったんだ。 「こんな素晴らしい演奏家に、国家の恥となるようなバンドをバックに付けたのか。いったいお前らはどういうつもりなんだ」 という訳さ。協会の奴らは「私は知らない」とか何とかごまかしているが、回りにいた観客は真っ先に非難の声を上げ物を投げたのがこいつらだって知っている。「謝れ」「謝れ」の大合唱になって、やがて扉が開かれてみんな表へ出た。どこへ行ったと思う。もちろん英国音楽協会さ。 協会の建物に石が投げられ、ガラスが割れる。大きい石や木を持ち出して、みんなでドアをたたき壊す。さあ、ドアが開いたらもう滅茶苦茶さ。テーブルやソファー、本棚までが表に放り出された。警官がやってきたが観客の大歓声に右往左往していたね。 それでやっと協会の代表のオリヴェッティが引きずり出された。野郎、地面に這いつくばって「許してくれ」と言うじゃねえか。「謝るのは俺たちにじゃねえだろう」ってんでまた演奏会場へ戻った。警官が交通整理をやってくれたよ。 こうしてオリヴェッティがパガニーニに土下座して謝って、もう一度、今度はちゃんとした音楽界を開くと約束して、これでやっと暴動はおさまった。 まあ、これも後で聞いた話なんだが、オリヴェッティはパガニーニが自分の曲以外は演奏しないと聞いていたんだな。それで、他の曲を演奏するとボロが出るんだろうって、ああいう奴だから勝手な解釈をして、イギリスで人気のコレッリのソナタを演奏するよう依頼したんだそうだ。 おいおい、コレッリってイタリアの作曲家だろう。イギリスの作品を依頼するならともかく、いい加減この上ないね。オリヴェッティの意図は見え見えさ。パガニーニは受けを狙って自分の持っている技術を駆使する作品を書いている。百年も前の作曲家の作品では技術は全く通用しない。本当に演奏技術の力量だけで勝負するんだ。そうなれば、パガニーニがいかに見事に演奏しても、他の人の演奏とそれほどの違いが出ないだろうというんだな。 パガニーニはこれもあっと驚くやり方で返事をした。こういう古い曲は最初に譜面通りに演奏し、繰り返しの時は装飾音など自由に付けて演奏するんだ。パガニーニはその装飾音であきれるほどのテクニックを見せつけてやったのさ。全打音やトリルなんか当たり前、作曲家も知らない重音まで使ってね。装飾音付けすぎで本来の曲ではないって批判をした評論家がいたが、事情を知らないか協会の回し者だったんだろうね。 しかし、そのやり直し演奏会の前に、パガニーニは窮地に追い込まれたんだ。 ※ ※ ※ MS66 ソナタ的楽章 1832年初演という記録がある。3楽章のソナタ。フィナーレが「常動曲(ペルペゥエラ)」で、単独で取り上げられることが多い。出来のいい作品は人気もあり、別の場所でも聞かせるよう転用するのである。16分音符2242個を休みなく引き続ける曲で、パガニーニは3分3秒で弾いたと譜面にメモしている。1秒間に12音である。初心者の練習曲として作ったという説もある。 アッカルドの演奏では3分12秒だが、7秒で音は切れ、後は空白である。最後を伸ばさずにプツッと切ったらパガニーニに並べるかも知れないが、音楽的にはどうだろうか。 MS67 クーヴェント・ド・モン・セント・バーナード 「馬車道のバーナード修道院」とでも訳すのか。チャイムが10回鳴ると、これが2連打に。そこへ低音のみの弦と合唱が……ちょっと前衛的な印象の宗教音楽。続いてヴァイオリンのソロが歌うが、管楽器がからみあう。ここではトライアングルが印象的。再びチャイムが鳴ると、すぐにヴァイオリンとオーケストラのからみ。宗教的な雰囲気を持っているが、静かに展開。その後合唱となるが、印象的なのは伴奏に鳴り響く管弦楽。これはまるでバロックの作品。これが落ち着くと突然にお馴染みのメロディが……「ラ・カンパネラ」を終曲として転用している。 アッカルドの演奏を所有。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2017.02.26 08:29:41
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