名作落語大全集

４２：マグハムの話

　人気をやっかんでの酷評、離婚したことへの中傷、とにかくどこへ行ってもひどいことを書かれるのがパガニーニのスタイルになってしまった。それが一番ひどかったのがプラハだった。わしはその演奏会を裏方として手伝ったが、演奏会が決まってから毎日新聞雑誌に悪口が掛かれるので、客が来なくなるのではないかと心配したよ。例えば「ハンブルグベルゼンハレ」という新聞にはこう書かれている。
「演奏技術の素晴らしさは機械的なもので練習すれば出来る。才能、知性という精神的なものは一かけらも感じられない。運弓法は批評する価値もない。ウィーンでは彼と競演した者がいるということだが、ここプラハではそういう愚かな演奏家はいない。しかし、彼のあのような演奏を美しいと思う愚かな人はこの地にもいて、泣き出す婦人もいるということだ。何と馬鹿馬鹿しいことか。」
　この時の記事で最もちゃんと書かれているのがこれ。「運休法」のどこがいけないのかくらい書いておけばいいものを、「機械的なもの」だとか「精神的なもの」だとか、何一つ具体的に書かれていないのだ。
　え、日本でも同じようなことがあった。吉田秀和が、当時の新聞批評で、「演奏技術は素晴らしいが、心が伴っておらず、精神的高揚は伝わらない」とか、そういう批評に不満を持って、どこがどのように素晴らしいか、どういう点が足りないのかを具体的に書くよう心掛けたという文章があるのかい。なるほどねえ。
　それでは二百年も前に書かれた評価が大手をふるってまかり通るのも仕方がないね。ヨーロッパでも、ヴァイオリンのパガニーニ、ピアノのラフマニノフといえば、技術ばかりで中身のない代表とされているからねえ。ラフマニノフは日本では人気なんだってねえ。じゃあパガニーニも理解できるんだろう。え、こちらは昔の酷評が残っているのかい。
　まあ、とにかく、当時の批評は何一つ具体的に指摘せずに、技術だけを磨いているということばかりだったよ。書く方はそれが楽だからね。酷評ばかり書いているのは力がないからで、本当に優れた批評家は必ずいいところを見付けて具体的に示してくれるね。
　そもそもパガニーニも秘密主義でね、あの様々なテクニックを自分だけの独占にして、演奏方法も、譜面すらも外に出さなかった。ヴァイオリンをちょっとかじった程度では何が起こっているのか分からない。だから素人の批評家には、音楽そのものが理解できなかったのだろう。解説のしようがないのだ。この時代のパガニーニ評は、褒めるのもけなすのも、その演奏に唖然として、訳も分からずに書いている。だから、どこがどうという説明は一つも出て来ないのだ。
　プラハでも入場料を五倍取った。それで新聞雑誌では聞く価値はないというのを大々的に宣伝したんだ。だから客が来なくなるのを心配したんだよ。全くの杞憂だったね。夜の演奏会なのに、昼には会場前に大行列が出来、同じ値段を払うので立ち見でもいいから入れてくれという大混雑で、けが人まで出るほどの入りになったんだ。

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テデスコ：悪魔のカプリッチョ
　ギターの作曲家としてお馴染み。奇想曲による作品で、「パガニーニ讃」とされている。
　「ベニスの謝肉祭」も作っている。
　山下和仁の演奏を所有。

デルボード：ギター協奏曲
　ギターのソナタなどの旋律を使った協奏曲。パガニーニが管弦楽にも力があることをお考えると、全く伴奏になってしまっていて物足りない。
　作曲者自身の演奏を所有。

ドブソン：パガニーニ・ヒップ
ドブソン：パガニーニ・ウイスキー
　ギター作品。「お尻」の方の主題は何だかはっきりしない。「ウイスキー」は「馬車道のバーナード修道院」MS67の穏やかな主題を軽やかに演奏しているのが心地いい。
　作曲者自身の演奏を所有。

トレディチ：タトゥ
　管弦楽のための現代音楽作品。第２楽章が「パガニーニへのオマージュ」と題されて、奇想曲第２４番による幻想曲。
　バーンスタイン指揮のニュヨーク・フィルの演奏を所有。