【粗筋】
不景気な面の友達に一杯飲ませようかと言うと、懲りていると言う。別の友達がそう言ってあちこち連れ回り、川に下りて好きなだけ飲めと言った。
「川の水が飲めるかい」
「銘酒隅田川だと思え」
と言われ、悔しいから両手ですくって駆けつけ三杯。
誘った友達が言うには、この先に鰻屋が出来て、開店当日出掛けると、酒はすぐ来たのに鰻が来ない。催促すると丸焼きを持って来た。文句を言うと、職人が出て行って鰻が出せない、その代わりお勘定は頂きません、と酒をタダで飲んだと言う。さっき、また鰻裂しがいなくて親父がうろうろしているから、今行けばタダで飲めると言うのだ。
店に行くと思惑通り、親父が
「今鰻裂しがいないので」
と断るが、「鰻裂しを食いに来たんじゃねえよ。鰻を食いに来たんだ」と言うので、親父が自分で鰻をつかもうとするが、握った鰻が逃げようとして、だんだん上へ向かう。
「お客さん、台を取って」
「前に向けりゃあいいじゃねえか」
と今後は前に向けるが、鰻をつかんだまま歩き始める。
「お客さん、留守番をお願いします」
かみさんが出て来て
「あら、お客様、主人がおりませんでしたか」
「今鰻をつかんで表へ出て行った」
「あらまたですか」
親父が町内を回って戻って来た。
「親方、お前ェどこへ行くんだい」
「前へ回って鰻に聞いて下さい」
【成立】
落ちまでほとんど同じ経緯だが、士族の商法で演じる「素人鰻」がある。タイトルはどっち付かずだが、一応区別しておく。こちらが新しく、「素人鰻」が主人の武士としての矜持などを省いて町人だけに改定したものと思われる。
落ちは、安永6(1777)年『時勢噺網目』巻一の「俄旅」には、「嬶ァ、よう留守せい」という落ち。関西の評論家には、原作の方がはるかに優れていると言う声が多い。まあ、スッキリして無駄はないが、演じた時の面白味はどうだろう。