遠藤瑤子の手がダイヤルを回す。
早送り巻き戻しストップモーション。
放送ギリギリまで粘っている。
彼女は高視聴率を稼ぐニュース番組の１コーナーを
担当するフリーの編集ウーマンだ。

映像は何を語るのか。
事情聴取を終え警察から出てきた男が
薄気味悪い笑みを浮かべている。
放送事業の認可に関して
業者と郵政省との癒着は昔から問題になっている。
事件を調査する弁護士を監視する男と
まさにカメラに向かって笑みを浮かべる男と
とても背格好が似ていた。

麻生公彦
郵政省のノンキャリア。

春名と名乗る郵政省官僚から
持ち込まれた告発テープこそ編集された代物だ。
過去より続く郵政省の癒着の歴史を断ち切るためと
正義面して渡されたテープに瑤子は興奮する。
あの笑い。
あれは全てを物語っている。
あの映像を流せば
視聴者はどう思うのか
おそらく誰もが
彼を犯人に結びつける。

麻生の人生が転落する。
真実に近づくほどに
遠藤瑤子は彼にしがみつかれ道連れにされ
ついには麻生を殺してしまう。
春名という郵政省の官僚は存在せず、
麻生の笑みは犯罪者の笑みではなく生来のもの。
告発ビデオに映った人影は麻生ではなかった。

黒木瞳が遠藤瑤子を等身大に演じている。
しかし見所は麻生の「笑み」
陣内孝則は一度観たら決して忘れ得ないような表情で
この映画のキーワードを確実に表現した。
瑤子を恨んでつけ回す陰湿な性格と
出世の望みもないまま罠にかけられた悲劇的な人生を
あの「笑み」に
見事に封じ込めている。

瑤子の手は神の如き所業でダイヤルをまわす。
推論に視聴者を導くべく
時間配分に気をつけ、
映像の順序を組み立てる。
時に１シーンだけ逆回しの映像を挿入する。
やってはいけないとされていること。
だがやっていないはずはない。
現実の世界でもきっと。

麻生を殺したことで連行される瑤子を
彼女の息子がビデオカメラに収めていた。
瑤子は懸命に微笑んでいる。
だがその映像もまた誰かに編集される

編集され視聴者に届けられる遠藤瑤子が
華々しいまでのスポットライトを浴びる。
かくして本物の官僚の癒着は暗がりの中に隠れて
薄気味悪く笑っている。

2004年6月28日、この映画の原作・脚色をされた野沢尚氏の死が報道されました。
非常に残念です。下記トラックバックは私の別サイトBLOGのエントリより。
ご冥福をお祈りします。