フランス領ギアナの監獄。
囚人には過酷な労働が。
慣れぬ熱帯の気候に、伝染病、飢え。
窓のない暗闇の独房に閉じこめられることもある。
だがパピヨンは自由を求め続ける。
脱獄を繰り返して。

「俺は生きてるぜ」I'm still here

最初に送られたサン・ヨセフ島の刑務所では、
パピヨンを巡るさまざまな登場人物も脱獄を試みる。
脱獄へと至る動機は過酷な「現状」にある。
死と隣り合わせの「現状」である。
脱獄は「生」へのかすかな望みなのだ。
だが失敗は「死」につながる。
即座に銃殺された者、ギロチンに、病気。
何人もの囚人が、死んでゆく。
刑を終えた直後に死んでしまった者もいた。

パピヨンの自由への執念は、
スティーヴ・マックイーンの演技に集約される。
表情や仕草、ただ立ちつくすだけの姿にも
秘めたる感情が表れている。
犯罪者ではあるが、無実だという信念、
監獄の仲間を庇い続け、自らが罰を受けるが、
彼の顔には確固たる意志の強さが常に浮かんでいる。
独房ではゴキブリを食べ生き残ろうとする生への執着。
まさしく熱演である。
しかも相棒とも言えるドガはダスティン・ホフマン。
厚底メガネにしまらない顔ではあるが、
パピヨンの存在を明確に浮き彫りにする。
熱演を受け止める器の大きな演技である。
重厚で長い映画ではあるが、
二人の俳優の演技は観る者を捉えて離さない。

パピヨンとドカ、
二人はラストに別の「生き方」を選択する。
8年以上の刑を処されれば、フランスには戻れない。
戻ることが罪となるのである。
刑を終えたパピヨンは、ドガと再会する。
束の間の旧交を温めるが、
二人の考えはまるで違っていた。
島の断崖から波を観察し、
そう遠くない本土へと逃れる方法を探すパピヨン。
ドガに脱走を持ちかけるが彼は拒否する。
もう、若くはないのだ、この土地で
着実に生きていくことを彼は選択する。
死の危険が伴う脱走を止めようとさえする。
パピヨンへの友情がそうさせるのだ。

「俺は生きてるぜ」I'm still here

波の上で、パピヨンは叫ぶ。
見事に椰子の実の袋まで辿りつくパピヨン。
ドガは少し嬉しそうである。
彼もこれから静かに
島で一生を生きてゆくのである。

脱獄するか、残るのか。
裏切るのか、匿うのか。
自由、希望、執念、諦め、そして死。
あらゆるものが詰まっている。
どれを手にするのか、手にできるのか。
どんな方法で、どんな風に生きてゆくのか。

生きている限り。
人は「選択」を続けている。
パピヨンのように、ドガのように。
いつか死が訪れるまで。