人生を握るようにグリップを握る。
小さなボールを、空高く飛ばすために、
その場所に立つことができるのは、自分、一人。
だからこそ、鏡を見るように
自分というものと向かい合うのだ。

1928年のジョージア州のサヴァンナ。
かつて若き天才ゴルファーと謳われたジュナは、
ゴルフそのものを捨ててしまっていた。
第１次世界大戦への出征、
戦場を体験すれば辛い記憶は自然に増える。
故郷に戻ってきても酒びだりで、
アバラ家で、ギャンブルに興じていた。

酒を飲んで、脳細胞を潰してゆく。
辛い記憶も一緒に、消し去ってしまうために。

人生と立ち向かうのは
ジュナの恋人だった大富豪の娘、アデール。
大恐慌の余波で父親は自殺をしてしまい、
残ったのはアメリカ最高のゴルフリゾートという状況。
建て直しを計るために
二人の人気ゴルファーを呼んで、
エキジビション・マッチを開催する。
家財も何もかも売り払っての決意である。
試合にはもう一人必要だった。
街の英雄、かつての天才ゴルファーが。

バガー・ヴァンスが現れたのは、
ジュナが一人で練習を始めてからである。
5ドルでキャディを引き受けて、
自分のスイングを見失ったジュナを導いてゆく。

ロバート・レッドフォード監督作品。
映像が美しく、物語が綺麗に紡ぎあげられる。
レイチェル・ポートマンの優雅な音楽に揺られ、
ニッカポッカなどのゴルファーのファッションも愉しい。
等身大の演技をするマット・デイモン、
当時の衣装を着こなす美しいシャーリーズ・セロン。
そしてバガー・ヴァンスを演じるのは
ウィル・スミス、驚くほど不思議な微笑みで、
ゴルフと人生を語っている。
どうやら本当にゴルフが好きな俳優のようだ。

一人、フィールドに立ち、
グリップを握りしめ、クラブをふる。
ボールを置かれた環境をよむ。
アプローチの距離感を掴む。
バンカーや池にボールが行くこともある。
クラブを選びなおし気を取り直す。
そしてイメージする。
ボールをどこに飛ばそうかイメージする。

自分のスイングを見失っても、
自分というものを見失っても、
ゆっくりと時間をかければ取り戻せる。
この作品のメッセージはわかりやすく温かい。
温かい感情が生まれてくる映画である。

人生を握るようにグリップを握る。
ギャラリーは静まりかえっている。
聞こえてくるのは自分自身の声、のみ。
どうするのか、どうしたらいいか。
自分でジュナが決められるようになったとき、
バガー・ヴァンスは彼から去っていった。
もらった靴を履いて、波と戯れ、
ダンスを踊っているかのように。