愛しい女性がいる。
雑踏の中に見つけた、最愛の女性。

彼の現実は煌びやかな舞踏会に入れ替わる。
セントラル・ステーションの人たちは、
皆、優雅にワルツを踊っている。
愛しい人よ。
彼女が存在が世界を変えた。

彼が亡くした妻も、
彼にとって、かけがえのない存在だった。
元は大学教授だったバリーは、
妻を亡くし、精神に異常をきたし
ホームレスになっていた。
不幸な事件だったのだ。
人気DJの言葉を真に受けたリスナーが
彼と彼の妻がいたレストランで銃を乱射した。
「ショットガンでヤッピーたちを殺せ」
巻き添えを食った人たちの中に、
バリーの妻もいた。

愛する人よ。
その人はどんなときも隣りにいる。
人気DJだったジャックも、
立ち直れないほどの痛手を受けた。
自分の言葉が人殺しのひきがねを引いたのだ。
背負ったものが重すぎる、
重すぎて人生を歩くことが出来ない。
だが傍らには、アンがいた。
落ちぶれたジャックの傍らにいた。

テリー・ギリアム監督の作品。
友情と再生の物語は、本当に温かい。
暴漢に襲われたジャックを助けるバリー、
二人の出会いは、まるで運命のようだ。
ホームレスのバリーの寝ぐらはボイラー室。
そこは、中世の城や騎士、悪魔が描かれていた。
彼は聖杯を探していた。
ある場所はわかっている、
しかも、ジャックは
聖杯探しの協力者だと言い出す始末。
どん底にいた二人は、
旅に出発したかのように見える。
そこから這い出すための聖杯探しの旅へ。

その旅は、出口の見えぬ闇の道程。
彼らは、自分の足で歩き始めていた。
だが、愛しい人はいつもともに。

バリーも、ジャックも、
救われようとし、救おうとし、
手探りながらも頭上の光を掴んでいた。
掴んだ光は哀しみを癒せやしないが、
背負いながらも人は、
立ち直ることが出来るのだと、指し示す。

ロビン・ウィリアムスのバリーと、
とジェフ・ブリッジズのジャックである。
印象の異なる俳優の共演は、不思議な雰囲気を醸し出す。
テリー・ギリアム監督の演出も、大きいのだろう。
どん底の彼らを見守る女優たちの、
やわらかで温かい演技も作品の質を高めている。

愛しい女性がいる。
雑踏の中に見つけた、最愛の女性。

救われようとし、救おうとし、
手探りながらも頭上の光を掴んでいた。

誰かがともにいるから、
道は見つかる。
例え自分は、一人だと思っていても。