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カテゴリ:日本映画
向かい風を受けて立つ男がいる。
捜査状況が書かれたホワイトボードを背に、 眉間に皺を寄せたまま座っている。 彼、室井慎次が指示を出せば、 現場は一斉に動きだす。 殺人事件。 被害者の生命の尊さと、 残された者の悲しみを思えば、 真実は、明らかにされるべきだろう。 警察は事件を追う。 容疑者が確保され取り調べが始まる。 そこで生まれる権力がある。 警察は一人の人間の自由を奪い、 一生消えぬレッテルを貼るのだ。 「殺人事件の容疑者」と。 奇しくも室井が逮捕されたのは、 彼が本部長を務めた事件で、被疑者逃亡、 その際、新宿署の刑事による 被疑者への荒っぽい接し方に要因がある。 おまけに被疑者は事故で死亡。 現場の判断を信頼する室井には、 思いもよらぬことだっただろう。 だが、彼は事件の真実に近づき、 弁護士、小原久美子と知り合ううちに、 警察権力のあり方を考えるようになる。 「私、警察は嫌いです」 室井の弁護を真摯に担当しながらも、 小原久美子は、はっきりと彼に宣言した。 過去に彼女は、警察によって、 無神経ともいえる事情聴取を受けていた。 被害を受けたのは彼女なのに、 男を誘ったのは、おまえだろう、と。 無表情で無口な室井を演じるのは柳葉敏郎、 地味なキャラクターを主人公に押し上げたのは、 長い間つきあった役柄ならではだろう。 重くなりがちな設定を和らげるように、 湾岸署のスリーアミーゴスが登場し、 筧利夫、真矢みき演じる管理官たちが、 「踊るシリーズ」らしく組織の暗部を浮き彫りに。 盛りだくさんの内容をうまくまとめている。 監督を兼任する君塚良一の脚本、 室井のモノローグの叙情性は彼ならでは。 小原久美子の上司を演じる柄本明が、 名台詞を味のある演技で表現してみせる。 このシリーズの妙味は、 波乱にとんだ展開と同時に、 多彩な人間性の部分も大きいだろう。 しかしながら、現実は。 この作品の犯人は人間性を失っている。 人間性を失った人間が、 犯罪を犯し、しかも一部の警察もまた、 権力を持ち、人権を侵害する。 八嶋智人演じる弁護士はゲームのように、 法律をお金を生み出す道具にする。 余談だが、吹越満が彼の部下にいる。 個性派俳優だけに、もったいない感じがした。 「踊るシリーズ」のテーマの深さは、 いつものことながら、秀逸でかつ、興味深い。 ただ、映画という枠が似合うかどうかは、 これからの課題なのかも知れない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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