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2006.05.28
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カテゴリ:ヨーロッパの映画
カラーティ家の二人の兄弟ニコラとマッテオは
まだ大学にいて将来を決めかめていた。
1960年代、イタリア、ローマ。
ニコラを担当する教授は彼に、
他の国へ行くがいいと言っていた。
これからこの国は混迷の時代に入っていく。
6時間6分にも及ぶ物語の中
時代は大きなうねりをあげるように
登場人物たちを飲み込んでいく。

作品の話の前に
少しばかり映画館のお話をさせてもらおう。

長時間な作品が故に、
上映劇場も上映期間も限られていた作品。
大阪から電車に乗り、滋賀まで足を運ぶ。
全国で順次上映され評判を呼んでいるだけあって、
思いの外劇場の座席は埋まっていた。
休憩時間をはさみ同じ観客と時間を共有する。
良き感動と楽しい興奮。
もちろん、席を立つ人は誰もいない。
誰しも生活があり仕事もある、
だが良作を堪能する機会に恵まれれば、
手放すのは愚の骨頂だ。

二人の兄弟を通して37年の月日が流れていく。
テレビドラマとして製作されたというが、
マルコ・トゥリオ・ジョルダーナ監督の演出は、
わかりやすく親しみやすい。
本作を牽引するニコラ役ルイジ・ロ・カーショの
にこやかな笑顔を大らかな演技が魅力的である。
苦悩の一生を終えるマッテオ役は、
アレッシオ・ボーニ、彫像のような体格、
整った美形で劇中でも「ハンサム」と評されている。
女優陣も生き生きとした美しさに加え、
脇を固める年配の俳優たちもしっかり好演している。
この作品は間違いなくキャストの魅力で、
観客の心をグッと掴むことに成功しているように思える。

1960年代から始まる物語。
ニコラ、マッテオをはじめとして、
登場人物たちが飲み込まれるイタリア現代史のうねり。
ニコラには大学で仲のいい二人の友人がいた。
だがこの時代大学を出ても
成功といえる生活を掴むのは三人のうち二人。
案の定、ニコラの友人ヴィターレは
フィアットの労働者だったが解雇される。
経済の破綻はその国に暮らす人の不満にもつながる。
労働組合の支援組織だったという
イタリア民兵組織「赤い旅団」はやがて、
数多く誘拐や殺人事件を起こしイタリアを震撼させていく。
長い混迷の時代が続く。
後にニコラの妻となるジュリアも
「赤い旅団」の組織に参加することになる。

ストーリーを追っていけば、
時代が大きく登場人物たちに影響して、
社会性ばかりが強調されそうになるが、
常に視点は「家族」や「愛」にしっかり固定されている。

ニコラとマッテオの兄弟は、
一人の女性との出会いで自分の道を定める。
ジョルジア、精神を病んだ少女と
まず最初に出会ったのはマッテオの方である。
忌むべき悪習である「電気ショック治療」を受ける彼女を
病院から脱走させ、兄ニコラを巻き込み彼女の故郷へ向かう。
ろくに意志の疎通もできず諍いもあるが、
イタリアの輝くような自然の中で
わかわかしい三人が時折笑顔を見せている。
だがジョルジアの父は新しい家族を持ち、
手のかかる娘を受け入れることは出来ない。
しかもこの時代精神病院は患者への対応は極めて悪かった。
若いニコラとマッテオの兄弟は
何もできないままジョルジアとはぐれることになる。
何も出来ない、
自分の力が及ばぬことを知って、
ニコラとマッテオは真逆の人生を選ぶ。

何とかしようと精神科医の道を志すニコラと、
ままならぬ苛立ちを律しようとして軍隊に入るマッテオ。

常に多くの人々に囲まれるニコラと、
いつも一人で書物だけと友とするマッテオ。

ニコラは大切な二人の人間を失うことになる。
1966年、フィレンツェの大洪水で知り合った、
金髪の女性ジュリアが「赤い旅団」に参加するのを止められず、
最後の別れの挨拶にきたマッテオの様子を
誰よりも気遣っていたはずなのに、
彼の苦悩を受け止めてやることは出来なかった。
ニコラは精神科医として実績を積み、
たくさんの人の話を聞き
いろんな心を受け止めたはずだった。
そして自立の手助けをし、
一人で生きていく手助けをしようとしていた。
だが、人で生きていこうとする妻と弟を失う。

僕の「愛」で
彼らをしばりつけられなかった。

妻と弟を失い、玄関の戸口で
二人を見送ってしまった自分を呪い、
ニコラは自分の生き方そのものが
彼らが破滅に向かうのを止められなかったことを知る。
愛する者を束縛しないで
自由に生きることを望むのも愛情。
だが、愛する者のために束縛することも愛情。
テロリストとなった妻ジュリアと再会したニコラは、
悩んだ末に一つの決断をすることになる。

語ることはあまりにも多い。
悩み苦しみ、愛する者を失い誕生を目の当たりにする。
親から子へ、子から親へ、
たくさんの想いが生まれ消え受け継がれる。

物語は幸せな結末でも
哀しい悲劇でも終わらなかった。
ニコラとマッテオと軸とした時代の物語、
愛情と家族がしっかり描かれている。
そしてそれらの全てが
思い出すわけでもなく最後によみがえるのは、
物語の全てがよみがえるのは美しい風景故である。

最後に、マッテオの子供が
ニコラとマッテオが行き着けなかった場所へ行き着く。
美しいのである。
美しいのである。
物語の全てとその景色が重なり。
世界が美しいことを思い出せてくれるのである。




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Last updated  2006.05.28 19:05:01
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