南風一の世界

　　　　理由（わけ）　　　　　南風一

母が息を引き取る間際
私は確かに母の子には違いなかったけれど
特に「ありがとう」とかの言葉をかけることはなかった

どうせ「ありがとう」と言ったところで
母には聞こえないだろうという諦めもあったかもしれない
それよりそんな慰めのような言葉を言ったところで
何がどう変わるのかという思いもあった

私が母にかけた言葉は
「ばあちゃん　エライ？（しんどいという意味）」
それが自分の最期に子からかけられた言葉というのでは
母にしてみればちょっと淋しかったかも知れない

母は私と妻が病室に駆け込んでから
１～２分も経たずにあの世に旅立った
朝飯を食べに行くと伝えて
病室を空けたほんの３０分の間だった

急ぎの食事を済ませて
病室に帰って来たときは
医者と看護師が少し離れたところに立って
心電図と母を代わる代わる見ていた

私が「ばあちゃん　エライ？」と声をかけて
額に手を当てると
すぐくらいだったかな
大きな息をふうーと吐いて
それっきり心電図の線は途絶えてしまった

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