イチゴケーキ 南風一
何も知らない素人ほど怖い者はいない
母が亡くなって１年半になる
つい５年前の正月に実家で撮った写真の中の母は
人形を抱いて穏やかに笑っている
その頃
家では食事の度に血糖値が上がるので
インシュリンを打っていた
そんな話も聞くには聞いていたが
俺は実家の母を訪ねる度に
イチゴケーキやメロンケーキを買って行った
「たまにはいいんじゃないの」と軽い気持ちで
甘いケーキを買って行っていた
母は甘いものが大好きだったから
ぺろりとケーキを平らげていた
今から思えばそんなことも
病状の悪化を早めたのかも知れない
知らぬが仏とはこのことだ
俺はせっせと母の糖尿病の悪化を手助けしていたことになる
それに認知症が加わって
母は病院に入院せざるを得なかった
母は若い頃から
大抵の苦労には耐えていたから
何事につけ「嫌だ」というのを
聞いたことがなかった
それでも認知症の悪化を理由に病院に入院させられることには
最期まで嫌がった
「家で一日中母の世話をできる人はいない」ということを
納得してもらうまでには随分時間がかかった
病院に一旦入院すれば
病気が悪化するのは早かった
大腿骨を骨折してからは危ないというので
ベッドに寝たきりにさせられた
身体は弱り
認知症も悪化して
入院から２年もせずに亡くなってしまった
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