ＭｏｎｏＦｒｅａｋニュース～DENEI CHANNEL

天才型と努力型。
スポーツ選手のタイプを分けるのによく使われる言葉です。

日本のフリースタイルスキー・女子モーグルは、長野オリンピック以来の12年間、2人の選手が牽引してきました。里谷多英選手と上村愛子選手。ともに長野以来、今回が揃って4回目の五輪です。

そもそもモーグルという競技は、コブだらけの急斜面を、途中2回アクロバティックなジャンプを交えて滑り降りる、一瞬のミスも許されない競技。ミスしたとたん転倒やコースアウト。他の競技に比べて一つのミスが致命傷になる危険性が比較的高い競技です。フィギュアスケートのようにジャッジによる採点で順位が決まるので、なおさら小さなミスも許されません。

そのモーグルで、里谷選手は、オリンピックという大舞台の頂点に立ちました。
長野では、ジャンプに期待が集まっていたこともあって、全国的にはほとんど注目されていませんでした。確か、女子モーグルの生中継は、地上波テレビ放送では予定されていなかったと思います。里谷選手のメダルが濃厚になってきて、急遽レースが途中から放送されたと記憶しています。当時高校生で6位に入賞した上村愛子選手とともに、彗星のごとく「世界デビュー」した、まさにシンデレラガールでした。

里谷選手は天才型です。
もちろん、練習も子供のころから重ねてきました。小学5年生のときにモーグルを始めて以来、父上の指導に応え、めきめきと上達しました。
ホームグラウンドは、札幌オリンピックでアルペンスキーの会場となったテイネスキー場。モーグルのコースは、アルペン種目に比べて距離が短く、雪質も比較的柔らかいため、日本と欧米でコースの差は大きくありません。そんな環境も里谷選手を世界トップレベルに押し上げる好条件でした。
そうして里谷選手は国内に敵なし、の状態に上り詰めましたが、里谷選手にとってはさほど難しいことではなかったのでしょう。

長野後、里谷選手は、フジテレビに所属することになりました。
里谷選手は、もちろん金メダル獲得直後から常に報道陣に囲まれていました。その中で里谷選手の目に止まったのは、テレビ撮影スタッフの中の音声マン。遠くからでも選手の声が拾える、先端にマイクが付いた長いブーム(バー)を操るスタッフに強い興味を示します。「あれ、やってみたい」。それが、異例のテレビ局所属になったきっかけでした。
アナウンサーやリポーターやディレクターではなく、音声マンに興味を示すのはかなりユニーク。他の選手とは一味違うことを強く印象付けられました。

そのころ、里谷選手は「次のオリンピックも金メダルを」という周囲の期待をよそに、引退をほのめかします。長野の前年に里谷選手にとって最大の指導者である父上が他界されてしまったこともありますが、周囲には、「練習が嫌い」 「苦しい」「好きなことをしたい」と、よくこぼしていたそうです。里谷選手は本当に引退を考えていたのでしょう。足首を折る大ケガという選手生命にかかわるトラブルもあり・・・。

しかし、ゴールドメダリストが大きな理由もなく次の五輪に不参加とあっては、周囲が黙っていません。スキー連盟のトップ自らが何度も説得しました。その末に、里谷選手はソルトレーク五輪出場をやっとのことで承諾しました。

誤解を恐れずに言えば、里谷選手の本音としては、金メダルは周囲が思っているほどたいしたものではなく、「単なる一つの記録にすぎない」のかもしれません。青春真っ只中の里谷選手はモーグルよりもっと他にしたいことがたくさんあったに違いありません。

しかし、大舞台になると結果を残すのが天才たる由縁。ソルトレイク五輪で里谷選手は2大会連続のメダルとなる銅メダルを獲得しました。冬季五輪で日本の女子選手が2つ以上のメダルを手にしたのもはじめてという偉業。
「しぶしぶ」出場したオリンピックでまたメダルを取ってしまう強さ。やはり天才型です。

里谷選手の「天才型」を示すかのような私的トラブルもありました。酔って暴行事件を起こし起訴猶予処分になった事件。スキー連盟の強化選手から外れました。一時は事実上の引退と誰もが思いました。しかしトリノ五輪にも里谷選手は出場します。さすがに結果は15位でしだか。
この手のトラブルは、偉業を成し遂げたスポーツ選手に案外多く見受けられます。最近では史上最強の呼び声が高かったあの横綱。引退しましたね。スキャンダルという点では、サッカー・アルゼンチンの元英雄・マラドーナも。

話がちょっとそれましたが、つまり、天才型リアスリートが凡人と最も違うのは「心臓＝ハート　の強さ」ではないかと思うのです。「たかが金メダル」と思えるような心の強さというか、余裕。大舞台でも動じないことが頂点に立つために一番必要なことではないかと思うのです。かのイチローが「平常心」と言っているのはそういうことではないでしょうか。普通に力を出せば世界の頂点に立てる人とは、そんな人なのでしょう。

里谷選手は、深刻だった腰痛も回復しコンディションは上向きとのこと。バンクーバーという大舞台に向け、里谷選手は「天才力」を放ってきているようにも見えます。何かやってくれるかも知れないという期待が高まります。それは里谷選手だから。

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