「子育てを楽に、楽しくする方法」(絵本の力-読む力より聴く力を育てる)
「クシュラの奇跡」という本があります。これは「クシュラ」という、重度の障害を持って生まれてきた女の子が、絵本の力によって、奇跡的な成長を遂げたという実話です。少し長いですが、「BOOKWAVE」というサイトからそんの紹介分を引用させて頂きます。もし、自分の子どもが重度の病気を抱えて生まれてきてしまったら、生まれてすぐに長生きできないと宣告されたら、あなたはどうするだろう。ニュージーランドに住む、クシュラに起きた奇跡をご存知だろうか?重度の病気を抱えて生まれてきた彼女は、1歳を迎えることさえ難しいと医師に診断された。そんな絶望の中にあっても彼女の両親は諦めず、愛情を持って接し、最適な治療法を探し続けた。そして母親が見つけだした方法は、「絵本の読み聞かせ」だった。絵本によって、クシュラの成長に変化が現れたのである。この、ニュージランドで本当に起こったクシュラの奇跡は、読み聞かせの効能といった話に終始せず、親が子どもに接する際に大切なことを教えてくれる。絵本との出会い1971年12月18日、ニュージーランドにてクシュラは生を受けた。他の親と同様、母親であるパトリシアと父親のスティーブンは彼女の生誕を心から喜んだが、生まれた直後から黄疸や痙攣といった様々な病状がクシュラを襲った。また、筋肉麻痺の症状も持っていたため、体を自由に動かすことも困難だった。関節も異常に柔らかく物を握ることもできなかったという。そして、一番の問題はクシュラの視覚と聴覚がほとんど機能していない、ということだった。それはつまり、目や耳からの外的刺激による知能の発達が難しい、ということを意味している。クシュラを苦しませるあらゆる症状の原因を探るため、検査を繰り返し受け続けた。その結果、クシュラは染色体異常を持って生まれたことが明らかになった。的確な治療法が見つからず、絶望的な状況ではあったが、クシュラの両親はそれでも諦めなかった。外的刺激を与えるため、おもちゃをクシュラの口元に触れさせたり、たくさん話しかけたりといったことを実践した。また、クシュラが眠りにつくとき以外はずっと抱きかかえ続けた。そういった努力を続けても、生後6ヶ月の乳幼児並の成長をするまでに、クシュラは17ヶ月をも費やしたそうだ。そんな中で、クシュラが最も反応を示したものが、絵本だった。絵本を顔に近づけて、かすかながらに何かを発見するとクシュラは微笑んだという。クシュラに起きた奇跡生後4ヶ月目にして、クシュラが絵本に反応を示すことを知った両親は毎日絵本を読み聞かせた。長いときには1日10時間も読み聞かせを実践したそうだ。クシュラはこの両親の絶え間ない努力によって、3歳9ヶ月までになんと、140冊もの絵本に出会うこととなる。この膨大な読み聞かせの体験が、クシュラに奇跡を起こした。知能の成長が不可能であると診断されたクシュラは、3歳8ヶ月の検査において標準以上の知能を持っていることがわかったのだ。知能の劇的な発達とともに、根気強い治療によって筋力も強くなり、不安点ながらも以前より体にも自由が効くようになった。絵本の文章を丸暗記したり、絵柄から感情を読み取ったりといった経験がクシュラの脳に外的刺激を与え、奇跡的な成長を促す結果となったのだ。「子どもは体験によって育つ」というのは誰でも知っていることだと思います。どんなに知識を溜め込んでもそれは「成長」とは異なります。コンピューターに百科事典を全部記録しても、そのコンピュータが成長するわけでも、賢くなるわけもはありません。「賢い」というのは、学んだことを自分の思考や感覚や行動とつなげて実際に使いこなせることです。そしてそのためには「体験と共に学ぶ」ことが必要なのです。そうでないと、「知識」と「現実」がつながらないからです。だとすると、クシュラはその「成長に必要なもの」を学ぶことが出来ない状態で生まれてきたことになります。完全に見えない、聞こえないということではないにしろ、聴力も視力も非常に低くさらには筋肉麻痺の状態なので、動くことも出来ないのですから。では、そんなクシュラがどうして普通の子に追いつくことが出来るほどに成長することが出来たのか、ということです。そこに「絵本と声の持つ力」があるのです。このクシュラの奇跡の話を通して「絵本の素晴らしさ」を語る人は多いですが、絵本をDVDで見せてもクシュラには働きかけなかったと思います。絵本がクシュラの心とからだに働きかけるためには、「クシュラに語りかける声」が必要だからです。それは「DVDから勝手に流れてくる声」、ではなく直接クシュラに向けられた声です。絵本には絵が描かれています。ですから、私たちは絵を見れば言葉の意味も理解出来ると思ってしまいます。でもそれは絵本以外の世界で色々な体験をしている人間の発想です。怒っている顔が描いてあって、「○○君は怒りました」と書いてあれば、普通はそのまま分かります。でもそれは、絵本以外の場で「怒った顔」を見て、「怒っている」という言葉を聞いているから分かるのです。クシュラのように生活の場での体験がない場合は、「怒っている顔」の絵を見て、「怒っている」という言葉を聞いても、それが何なのか分からないのです。その時、「声」がその補助をしてくれるのです。人は「気持ちがいいね」という言葉を発する時には「気持ちがいいからだ」になっています。そして、「気持ちがいいからだ」の人から出た「気持ちいいね」という言葉を聞くと、その言葉を聞いた人のからだも緩むのです。「声」には「感覚と感覚」、「感情と感情」、「からだとからだ」を共鳴させる働きがあるからです。逆に、「怒っているからだ」「緊張しているからだ」の人が「気持ちいいね」と言っても、その言葉を聞いた人のからだは緩みません。むしろ、緊張してしまいます。だからこそ、「語りかける声」で「文字」以上のリアルなメッセージが伝わるのです。確かにDVDも声は出ます。でも、その声は「スピーカーから流れるだけの音」であって、「子どもに向けられたもの」ではありません。だから、子どもの感覚にも、感情にも、からだにも届かないのです。子どもは自分に向けて発せられた声だけ「言葉」として聞いて、自分に向けられていない声は単なる「音」として処理してしまうのです。幼い子どもに一日中テレビを見せていれば「音としての言葉」は覚えますが、「自分の思考や、感覚や、心や、からだとつながった自分の言葉」を学ぶことが出来ないのです。これは基本的に大人でも同じです。だから大勢の人が話している人混みの中でも、他の人の声に惑わされずに会話することが出来るのです。ただ、大人は、「聞こう」と意識することでその「音」を「言葉」に変換して聞き取ることが出来るだけです。でも、子どもにはこの能力はありません。「絵本の力」は「子どもに向けて語りかける声」とセットになって表れるのです。DVDで見せてもダメなんです。クシュラは、生まれつきの障害によって障害によって、実際に見たり、体験したり、多くの人と出会うことが出来なかったのですが、このコロナ騒動の中で育っている子どもたちもまた、実際に見たり、体験したり、多くの人と出会う機会を奪われてしまっています。だからこそ、絵本をいっぱい読んであげて欲しいのです。問題は、幼い頃からスマホやゲーム機を与えられている子は、絵本を読んでもらうことを喜ばなくなってしまうことです。小さい時から文字を教えられてきた子は、読んでもらうより自分で読むことを選びます。「文字を読む力」は育っても「聴く力」が育っていないからです。確かに、自分で読んでも意味は分かるかも知れません。でも、「文字では書き表すことが出来ない大切なこと」が伝わらなくなってしまうのです。子どもの心の成長に必要なのは「読む力」よりも「聴く力」なんです。今、それが育っていない子が多いのです。クシュラの奇跡普及版 140冊の絵本との日々 [ ドロシー・バトラー ]