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カテゴリ:解剖学
高校生の時理科の中で最も苦手で嫌いだったのが生物だったのに、今は生物系を仕事にしている。高校の生物が苦手なのは覚えなければならないことばかりだったからだ。物理なんかは簡単な理屈を理解しさえすれば、あとは数学を使うだけなので実に簡単だった。ヒトは2心房2心室、魚類は1心房1心室と覚えさせられてもつまらない。ちゃんと、なぜヒトは2心房2心室でなければならないのか、そして、なぜ魚類は1心房1心室で済むのかを説明してもらった記憶はない。教師も知らなかったのかもしれない。ただ覚えろと言われるのでは、英語と同じで面白いわけがない。 心臓に入ってくる血流を受け止めるのが心房、この血流を送り出すのが心室だ。ヒトの心臓に心房が二つ、心室が二つあるのは、心臓を通過する血流が二本あるからだ。全身から集まってきた血液を肺に送り出す血流が心臓の右側半分を通り、肺から来た血液を全身に送り出す血流が心臓の左側半分を通る。この二本の通路は完全に独立しているから、二つの血流は全く混じり合うことなく心臓を通過する。二本の通路それぞれに血液を受け取る心房と送り出す心室が必要なので二つずつある。これが、ヒトの心臓が2心房2心室でなければならない理由である。 魚類の呼吸器はエラである。魚が口から入れた水の一部を咽頭から外へ向かって出すパイプがある。サメの首に数個の穴が開いているがあれがパイプの出口だ。このパイプがエラ穴で、このエラ穴の壁に毛細血管が発達していて水に溶けている酸素を血管内に取り込むことで呼吸している。鯛や鰺では、エラがコンパクトに重ねられてエラ蓋の内側にたたまれているのでサメのような穴は見えないが、同じ原理のエラがある。魚類もヒトと同じように口から肛門に至る消化管があるが、口から入った水のほとんどは咽頭からエラへ抜けて呼吸に使われる。エラへの入り口がフィルタとして作用し、ひっかかった食物を咽頭から胃に送る。 ヒトの血管系では、全身--心臓の右側--呼吸器(肺)--心臓の左側--全身 という流れで血液は流れるので、心臓を二つの独立した血流が通過するが、魚類では、全身--心臓--呼吸器(エラ)--全身 という流れになる。心臓を通過する血液は酸素を使い果たした静脈血だけで、心臓を出たら直ちにエラに送られて酸素を付加された後、全身に向かう。魚をさばいてみれば、あるいはサンマを内臓ごと食べれば、魚の心臓は頭のエラのすぐそばにあることがわかる。血流が一本しかないから1心房1心室なのだ。 数年前、職場の近くのスーパーマーケットで安売りをしていた黒メバルを手術用の顕微鏡の下で高価な道具を駆使して解剖して、血管系を調べてこのことがわかった時は嬉しかった。高校の生物の授業でこういうことをやらせてくれれば、きっと夢中になっただろうに。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008.11.23 09:47:53
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