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テーマ:「屋業」の人々(234)
カテゴリ:業界ネタ
最近でこそ少なくなったが、かつては飲み屋の看板には、
日本酒の銘柄が書かれているのが普通だった。 実はこれらの制作費は、すべてメーカー側の負担なのである。 つまり、ウチの商品を使ってもらえるなら、看板代は出しましょう、 その代わりウチの銘柄の名前を入れて、「広告宣伝費」として処理させてください ......といったところだ。 ただ最近は、そのような対応はほとんど無くなってきている。 ひとつにはメーカー側の経費削減といった事情があるが、 もうひとつには「この投資が割に合わない」という事実がある。 かつては飲み屋で扱う酒の銘柄など、そうやすやすと替わるものではなかったが、 昨今は嗜好の多様化によって、お客の好みも千差万別になってきている。 お客の側から多様な銘柄のリクエストが相次ぐと、店主としてもむげには出来なくなる。 しかも元々使っている銘柄をお客が否定する(「不味い」とか何とか)ようになると、 店主はもはや銘柄を替えざるを得なくなってくる。 しかしここで問題が発生する。 看板を協賛したメーカーとしては、あくまでも自社銘柄を「使い続けてもらう」ことが 前提になっているので、途中で銘柄が替わるのは許し難いことなのだ。 しかし飲み屋の方としても、好き好んで替えるわけではないのだから分かって欲しい、と思う。 もっとドライなところならば、もうオタクのお酒は○年間使ったんだし、 看板代分の義理は果たしたからいいだろう、と主張する。 で、この間に立って苦慮するのは、我々リカーマンなのだ。 何せ双方の主張が平行線なのだから、それを無難にまとめるなど、どだい無理な話なのだ。 とりあえずは我々にとっての「お客」は飲み屋さんの方だから、 まずはそちらの主張を優先せざるを得ない。 しかし完全に飲み屋さんを肯定してしまうと、これはもう「ガキの使い」も同然だ。 だから時には、飲み屋さんに対して耳の痛いことも言うこともある。 我々の顧客(=飲み屋さん)との信頼関係と同じくらい、 メーカーとの信頼関係も大切だと、私は考えているからだ。 看板設置の折に、飲み屋さんに看板の銘柄を使い続けてもらうよう約束したからには、 メーカーの手前、こちらもある程度飲み屋さんの説得に当らなくてはいけないと思うのだ。 ただそんな正義感も、度が過ぎれば話をこじれさせるだけで、 実際に私もかつてそれが原因で、飲み屋との取引を切られたこともある。 しかし商売というもの、時にはそういうリスクを負っても、 やっぱり自分の軸はブレさせてはいけないとも思う。肝心なのはそのサジ加減なのだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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