テーマ:映画館で観た映画(8560)
カテゴリ:映画鑑賞記録
監督、脚本・・・タナダユキ 出演・・・蒼井優 佐藤鈴子 森山未來 中島亮平 ピエール瀧 藤井春夫 竹財輝之助 ユウキ 齋藤隆成 佐藤拓也 笹野高史 白石 嶋田久作、モロ師岡、石田太郎、キムラ緑子、矢島健一、斎藤歩、堀部圭亮、佐々木すみ、他。 ・物語序盤・ 佐藤鈴子は、留置所から出所してきたばかりの21歳の"平凡な"女の子。 何に秀でる事も無く、特に目立たず、普通に短大を卒業した後、就職できずにフリーターをしながら、実家で生活していた鈴子。 バイト先の同僚から、ルームシェアをしようと誘われ、良い物件を見付けたものの、相手は彼氏も同居すると言い出し、その上、いざ引っ越してみると、彼氏のタケシだけしか居らず、二人は別れたので彼女は来ないとの事。 部屋代を一人では払えないので、暫く同居してくれと言われた鈴子は、感じの悪い赤の他人と生活する羽目に。 ある日、捨てられた仔猫を拾った鈴子が、仔猫のご飯を買いに出掛けている間に、タケシは仔猫を捨ててしまった。 仔猫を探し回った鈴子は、車に轢かれて変わり果てた遺骸を見付ける。 タケシを許せなかった鈴子は、彼の留守中に、彼の荷物全てを捨ててしまった。 その報復として、鈴子はタケシから刑事告訴され、実刑判決を受けて前科者というレッテルを背負込む事態に…。 その後、実家に帰った鈴子だが、小学生の弟・拓也から何故帰って来たと罵られたのを切っ掛けに、バイトで百万円貯金が出来たら、家を出て自立すると宣言する。 鈴子は自分を誰も知らない土地へと、一人旅立った。 救いませんかー。そうか、敢えて誰も救わないか。 エンディングを観た瞬間、若干の驚きと共に、しかし、それも良かろうと思いました。 それが邦画の良い所であり、持ち味だから。 ハリウッドならば、間違いなくハッピーエンディングにしている。 そうすると、その時は確かに良かったねという気持ちにはなれるが、後から「でも現実は、そんなに甘くないよね。」という思いが湧いてくる。 太刀でズバッと斬られた傷口を、手当も出来ぬまま、血を流しつつ歩き続ける。 それが現実の人生だから、敢えて救わないという結末が、ある意味潔く心地よくもある。 それに完全なバッドエンディングではないですからね。 次の旅に出た鈴子は少し成長したと思うし、弟の拓也も戦うと決意した。 だからって、問題が解決した訳でも、答えが見付かった訳でも、救いの手が差し伸べられた訳でもないのだけれど。 でも少なくとも、自分の足で歩いて、道を切り開いてゆこうという心構えだけは、姉弟の心に芽生えた。 人間は弱いから、そんな心構えも、また崩れてしまうかもしれないけれど。 でも取り敢えず、今は戦うと決めたんだ。 それで良い。 と、まあ、そんな話です。 ところで、冒頭からツッコミというか、ビックリというか。 映画としては好きですが、物語の土台自体は、現実味が欠けまてます。 鈴子が旅に出ると決意する契機を、もっと別のエピソードにしてくれれば良かったかも。 この映画、いきなり、刑務所の独房に居る鈴子に、看守が出所だと声を掛けるシーンから始まります。 独房って、一体、どんな凶悪犯だよ?! その瞬間に有り得ねー、と心で叫んだ私。 そして「もうこんな所、二度と来るなよ。」とお決まりの看守の台詞の後、外の世界に出た鈴子は「娑婆かぁ。」と独り言。 この時、私の脳内で、シャバダバシャバダバ~♪の音楽が流れたと思ったら、次の瞬間、鈴子がシャバダバシャバダバ~♪と歌い出したではないか。 お前は、一体、何歳なんだよ?! 監督及び脚本のタナダユキさん、今21歳の女の子は、こんな歌を反射的に口ずさんだりしませんて。 自分の年齢で、安易に台詞を考えちゃダメよ。笑。 更に、独房に入れられていた鈴子の判決、罰金20万円の言葉に、「ちょい、待ってくれ。」となる。 何で罰金刑程度の事で、留置所というか、あれはどう見ても刑務所だろ…、に身柄を拘束されてたんですか、鈴子?! 訳、分かんないし…。 取り敢えず、取っ掛かりが、ええ?!と思う事で、そこは考えずに話だけ追っていましたが、やっぱり気になるのよ。(;一_一) お話について。 劇中の言葉にある通り、人間と長く付き合ってゆく最良の方法は、自分の本心を言わない事だと信じて、目立たぬ事を信条に生きてきた女の子が、しかし自分を押し隠している内に、何も言えない関係になってしまうのは悲しい事だと気付くまでのストーリー。 その言葉が示す通り、鈴子自身は気付かず通り過ぎているが、彼女は結構いい人達に巡り合っている。 海の家で出会った茶髪の兄ちゃんが、鈴子と上手くゆくとは、ちょっと考えにくいが、彼は彼なりに鈴子に好意を持っていた。 桃農家で出会った、婚期を逃した引っ込み思案の一人息子は、桃のPR嬢となる提案を固辞して集会所を後にした鈴子を、村人の罵倒から庇った。 そして地方都市のホームセンターで出会ったバイトの大学生・中島亮平。 映画は基本的に、鈴子目線で進むので、中島の人間性についても、観客は鈴子の見るものしか目に出来ない。 鈴子と同様に、人付き合いが苦手で無口な中島は、真面目な若者に見えた。 武骨で不器用だが、勇気を振り絞って思いを伝えてくれた中島に、鈴子も心を許す。 しかし半同棲のような付き合いが始まると、彼は徐々に変わってくる。 鈴子に金の無心をするようになり、デート代は全て鈴子持ち、新しく入った女子大生のバイトの子のお茶代まで肩代わりさせられる。 ホームセンターの意地悪な上司は、中島はモテるからね、と追い討ちを掛けるように耳打ちする。 本来ならば、胸倉掴んで怒りたい所だが、"自分の心を押し殺している内に、何も言えなくなった関係"は、納得行かない思いを出口の無い袋小路に押し込めてしまう。 ネタバレになりますが、結論から言うと、中島はお金目当てに鈴子にタカるような男ではないです。 彼の行動の裏には、切ない彼の想いが…。 働いて百万円貯まったら、次の場所へ移動する旅をしているという鈴子を、金を遣わせる事で繋ぎ止めておきたかったのだ。 しかし、出会った人々の心を、鈴子は何も知らないまま、次の場所へと流れてゆく。 ハリウッドのロマンス映画なら、鈴子と中島は駅で出会って、泣きながら抱擁を交わす所だが。 この映画は、飽く迄、リアルな世界を描く。 現実社会では、心と心は大抵、擦れ違ってゆくもの。 目の端に互いの存在を意識しても、殆どの人間は、相手の領域に踏み込む事無く、他人として通り過ぎてゆく。 自分の人生を省みても、そんなものだと納得する。 人生に於いて、三人親友と呼べる者を得たら、その人の人生は成功だったと言える、とは誰の言葉だったかな? 私も鈴子のように、流れゆく時間の中で、誰の領域にも踏み込まずに、それなりにやってきたような気がする。 一方で、言葉にしなければ、自分を伝えられはしないと思いつつ。 主人公は鈴子だが、弟の拓也も、もう一人の主人公だろう。 姉と違って成績の良い弟は、名門私立中学の受験を控えている。 しかし姉の不祥事で、いじめっ子達の標的に…。 姉が自分から逃げ続ける逃避行を続ける傍ら、彼は学校という残酷な戦場から逃れられない。 親も教師も、拓也に対する陰湿なイジメに気付かず、彼は孤立無援の状態に。 これもネタバレだが、鈴子が拓也に書き綴っていた、近況を知らせる手紙は、実は一度も投函されていなかった。 一方的に語られる手紙の内容に、その事実が明かされるまでは、拓也が姉を無視しているかのように映る。 しかし現実は、彼女は守るべき弟にも、背を向け続けていたのである。 初めて届いた拓也からの手紙に、自分の不甲斐無さを痛感する鈴子。 どんでん返しという程、大袈裟なものではないが、仕掛けられた小さなトラップに、引っ掛かる事請け合いだ。 ↑ランキング参加中。ぷちっとクリックして下さると嬉しいです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
Aug 13, 2008 05:47:13 AM
[映画鑑賞記録] カテゴリの最新記事
|
|