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その人が心底恐ろしかった。
その人を怒らせたらどうなるのか分からなかった。 その人はそんな私の様子を見るたびに、怯え竦む私を叫ばせるたびに更に非道なことをした。 元からその人の親に私の親が救われていたゆえに、私は逃げることもできなかった。 慈しんでいた花を、飼っていたねずみを、人にあげようと思っていた絵を、全てその人は奪った。 仕方ないので私はその人の全てを許した。 「なあ、最近大事にしているものはないのか?」 そうしたら、その人から奪われる事はない。 その人を大事に想えばいい。 自分から自分は奪えないのだから。 それなのにその人は自分からさえ自分を奪って見せた。 昔壊されたおもちゃのごとく転がるその腕を前に、私はやっと自由になったと思ったのに、 同時に今となっては簡単に手に入れられる筈の全ての者が褪せて見えた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2017.05.21 19:29:28
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