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長押 綴

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2012.03.06
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カテゴリ:.1次メモ
 一人で飯を食うのが好きな人種は居る。
 例えば幼馴染三人で飯食ってたのに二人がくっついたことで気を使って退出した俺とかな。あーまじつらい。こんなことなら三角関係維持してりゃ良かったのか。最高学年までずっと幼馴染とばかり付き合って、他の奴らとは最低限の付き合いしかしてなかったことに後悔するが、俺のキャラはそういうの気にしないキャラのつもりなのでどうにもできない。あーあ。

 そう思いながら屋内の一人で居られそうな場所を探す。
 最近寒くなってきたせいでボッチ御用達の場所が次々とバカップル共に侵食されてて爆発しろと何度思ったか数え切れなくなった。

「……クソが」

最後の砦・屋上に出る踊り場に人の気配。うっかり呟くと、その影がびくっと跳ねた。やべえ聞こえたか。

「さーせん、お熱いとこ邪魔しちゃって……」

そう言ってその場を離れようとした瞬間。

「あ、べ、別に大丈夫ですよ……っ」
「!?」

……結論から言うと。
そいつもぼっちだった。女子かと思ったが声変わり前の男子だった。しかも後輩。
なんでも転校生でなかなか馴染めないんだとか。

「先輩もお一人ですか…?」
「あーそうだよ」

 ほっといてくれ。ぼっち飯はぼっちの巣窟じゃ意味ないんだよ、他人が存在しない空間でこそ一人を実感しないでいられるっつーのに。ついでに幼馴染以外に対しコミュ障な俺自身も正視しないでいられるのに。
 だがこの後輩どんどん話しかけてきやがる。クラスで話せない反動なのかもしれんが甲高い声が若干耳に痛い。つーかこの空気読まなさ?グイグイ来る感じ?がクラスでうざがられてるんじゃないのか。

 …それでも、まあ、テスト対策を教えたり、逆に苦手な所を教えてもらうのは悪くなかった。ビジネスライクっつーか利害関係がはっきりしてるなら友好とか気にしなくていいしな。
 大体友達ってなんだよ。幼馴染とか親子とか部活の先輩後輩とか上司部下とかならともかく、これほど汎用性が高くて厄介なものもない。

 そう思いつつも先輩のなけなしの威厳を出しつつ、先生のアホなこととか、それぞれの部活ー俺は美術部の唯一の男子、そいつは陸上部に体験入部したーについて話したりとかするのは案外楽しかった。年が離れているからこそ、一線引かれていてよかったのかもしれない。

一区切り会話が終わるとまた飯を食べ始める。無理に続かない会話をしても仕方がない。
お互い話したいときに話しかけ、それに返答する。そういう微妙に冷たい関係でいいと俺は思う。-後輩がそうでなければ申し訳ないが。

「……あー……と、すみません」
「「え?」」

 そう思っていたら、唐突に階段を上ってきた女子に声をかけられた。

「あ、私すぐいなくなるんで」
「ちょっ、あ、あの、別に大丈夫ですよ!」

 彼女のぶら下げた弁当袋を見てついそう言ってしまった。

 ちーん。

 そんな擬音が響きそうな微妙な空間。
 その少女は窓のほうを向いているため表情が読めない。黙々と弁当を消費している。その上履きだけが彼女が2年生であることを語っていた。

「……えーと、俺たち、独り者同士でここを共有してるだけなんで、気まずくなければ、大丈夫ですよ」
「……はい」

 出来る限り変な声にならないようにつとめる。後輩は固唾を呑んで見守っている。

「それとちょっとここのことを他の人には秘密にしてもらえると……」
「あ、それは心配しなくても大丈夫です」

 見るからに地味な女の子だが、親しみやすそうな雰囲気と初対面の俺たちともある程度は普通に話せるあたり、友達が居そうなのに。
 だがそのあたりは訊かない。自分の事情も話して押し付けない。こういうのはあくまで自由に、この聖域と言う名のぼっち同盟本拠地(昼休み限定)を出てからするべきなのだ。

「「「………………」」」

 校内には誰かが友達に話しかける声、窓の外では校庭で誰かに呼びかける声。
 だが、その内何割が無理をして話しているのか。そう考えるとここは実に平和な空間だ。

「……ごちそうさま、でした。……あの、…次は、私、階段で食べていいですか」

 ああ。まあこういう話が来るだろうなとちょっと思ってはいた。クラスのグループとかではじかれた、けど俺たちの隣はちょっときついってことなんだろう。むさくるしいしな。

「ああ。なんでもいいと思うよ。つーか俺たちも他のところで食べることあるし、別に二人とも待ち合わせしてないし。バカップル避けにちょうどいいのがここってだけ」
「……ぷ」

 彼女のメガネの奥の目が和らぐ。きっとバカップルには覚えがあるのだろう、笑ってもらえてちょっと救われる。バカップルにちょっとだけ感謝したけどやっぱり爆発しろ。
 実際、おそらくこの柔らかな冬の光に照らされてる間だけが俺たちのぼっち不可侵同盟の期限だ。それが終われば俺は卒業するし、その前にこの後輩たちが友人や恋人、一緒に食べる相手が出来たということでこの同盟を卒業するかもしれない。彼女が次にやてくるとも限らない。
 それでも、この瞬間俺たちには通じ合うものがあったと思う。
 冬の窓から漏れる光ぐらいに儚い絆、だからこそいいのだ。

 女子は去っていった。
「先輩、どうします?」
「俺に訊かなくていい。……明日ここに来る。同じ場所で食べる。反応待ち」
「えー、うざったくないですか?」
「それはお互い様だろ、後輩」

 俺もこいつも自分の名前を話さない。
 お互いに記憶に遺すつもりも遺されるつもりもない、気軽な関係。

「またな」
「はい、また」

 だけど、その合言葉だけはちょっと嬉しかった。





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最終更新日  2016.12.16 12:46:40
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