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生徒会長なんてものをやっていると、色々な人にかかわる機会が増える。勿論、厄介ごとを起こすような人間とも。
文化祭中は特にそういう馬鹿がやらかす。 「…お前、いい加減にしろよ。原田」 「へいへい、すませんっす」 その筆頭、こいつ。原田。生徒会の問題児。やる気がないわけではないが、積極的に問題を起こされるくらいなら、まだなんにもしないでいてくれたほうがましだ。この間なんて、突然人に扇風機を当てて回るというこいつ曰く夏涼みテロを起こした。TPOをわきまえているならまだいいが、昨日なんてわざわざ学校に来ていただいている人にまでやらかしてあげくその人のかつらが飛んだ。俺達の目玉も飛んだ。こいつの首を飛ばしたい。 「……それと、今日、お前の彼女が来るらしいな」 「え、何で知ってるんすか?」 「お前が片っ端から人に話してるからだよ」 聞きたくなくても耳に入ってくるっつーの。 「くれぐれも問題起こすなよ」 「大丈夫ですって、俺の彼女めっちゃ真面目なんで、俺も変なことしたら怒られますもん」 「どうだか…」 ていうか、彼女がいなくても変なことすんなよ。 果たして。 当日俺達はきっちりとめかしこんだ原田と、その彼女とかいう原田には釣り合わなそうな美少女を目にすることになった。 「へえ……」 宣言した通り彼女の前では原田は比較的おとなしく、そして格好つけていてテンションが高くていつも以上に痛かった。 「今日は早く帰りますね~」 「おう、帰れ帰れ」 彼女は恥ずかしがり屋なのか、少し猫背気味でうつむきがちだったがむしろ好印象。落ち着きのない原田にはこういう子が諌めてくれるくらいで丁度いい。 「んじゃ、ツムルちゃん、いこっか」 珍しい名前の子だな。 あーあ、俺も彼女欲しい。いい人だけど…っていっつも言われるんだよな。 * 今日も兄貴があの「彼女」とかいうのと一緒に出掛けている。 俺はそれを素直に歓迎できない。というか、正直別れて欲しい。これは俺がブラコンゆえとかそういうわけじゃなく、純粋な兄弟に対する心配だ。 「たっだいま~」 近頃兄は帰ってくるといつもふらふらしている。あの女の子の要望に応える為、兄は自分自身を押し殺している。 自由過ぎる兄にはいい薬だとはじめは思っていた。だけれど最近は、少し行き過ぎている。 彼女以外の女の子には必要最低限しか声もかけず、ついでに男にも。ゲームも漫画もやめて勉強ばかり。いいことなのだろうが、違和感。日に日に、兄の姿が薄れていくような削れていくような。 「……お帰り」 「あ、これお土産」 ほら、これだってそう。昔はこんなことしない奴だったのに。 「……ありがとう」 「いいってことよ」 そして最近増えたのがバイト。学業と両立する為にどれだけの努力をしているのか。理想の奴隷。そんな言葉が頭に浮かんだ。 「そこまで、彼女に気に入られたい?」 「んー、今まで俺、結構自分勝手だったじゃん?そういう俺を見てたお前からしたら信じられないかもしれないし、今までいろいろ悪い事したとこっちも思うけど、でも今の理想の自分になろうと頑張ってる俺は、結構俺にも周りにも好評で、生きてるのがすっげえ気持ちいいんだ」 俺の目には今にも死にそうに見えるのにか? 「……無理すんなよ」 「はは、お前が言うなんて珍しいな」 こいつの理想の彼女。 それはこいつが作り上げた妄想の塊。はじめはその筈だった。ごっこ遊びと称して謎の儀式をして、そしてたまに彼女が実在するかのように振る舞っているこいつに俺はドン引きだった。けれど、次第に俺以外のー兄に興味がない、嫌っている人たちから先に「彼女」が見えるようになってきたらしい。 最近では母まで彼女が見えるようになったらしく、未だに「会って」いない父は「一度会ってみたいものだ」と漏らし、一方で俺はずっと見えないことを望んだ。 こいつの「理想」は、それを抱いた瞬間のこいつを憎んでいる。それこそ殺したいほど。 けれど俺はそんな馬鹿兄貴でも嫌いじゃなかった。変わっていく兄が、普通の変わり方なら俺だって応援した。けれど今のそれは今にも細い緊張の糸が切れそうに張りつめているみたいに見えて。 ああ、会いたい。あの能天気で馬鹿で、それでも神経質ですぐに落ち込む俺を笑い飛ばして休ませてくれた兄に。 二階の自分の部屋に帰る兄を見送る。その背中はどこかの社畜サラリーマンのようで。 もしも「彼女」が俺にも見えたなら、俺はそいつを殺すかもしれない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2016.07.16 00:03:01
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