Laub🍃

「ふふ、死にてえ」

　なんだか呉越同舟することになった命の恩人が呟いているけれど、……スルーすることにする。ごめんなさい。私そういうところちょっと酷い人なんです。


＊


「人数が増えると、なんていうか、俺の居場所がどんどんなくなっていく気がしてしまって……」
「ああ…わかるよ、それ」

　ただ今、海の上。船に乗る時にパーティの人数が一気に増えました。とはいえ、陸に着いたらまた別れるつもりではあるのだけれど。でも、やっぱり何人もいるのはちょっと、合わない。私は口を開けば結構きついことを悪気なく言ってしまうほうだから。

　そんな私がずっと敬語だったのをどうしてやめたのかというと、酒の勢いだ。小さな船、一応アニエスさんが加護をつけてくれたお蔭で沈みはしないものの船酔いが酷くて、お酒をちょっとだけ飲んだら気分悪いの治るかなあと思って。うち、酒豪の血引いてるし。そう思いながらちびちびとやっていたら、彼が話しかけてきたのだ。……東の貴族だという、「メイス」の。…東は、確か魔族に全面的に支配されていたんじゃなかったっけ……？まだ、人間たちの力がまだ残っているの……？そんな疑問を抱きつつ、彼と話していたらいつのまにか「孤独あるある」話になっていた。

「……僕と君は、こういうところは同意見なのかもしれないね。……タメ口でいいよ」
「……じゃ、じゃあ、よろしくね」

　育ちがよさそうな彼に対してタメ口を使うのは気が引けるけれど、それでもタメ口は喜んでもらえたし、まあいいか。同じように酒を飲み始めたハチコ、ナグモはとっくに沈没している。酒に弱そうな顔、していたものなあ。

「……ところで、さっき、死にたいと言っていたのは……」
「……ああ、なんか……僕、身内であんまり好かれてないんだ。……結婚相手もろくに探せないし、魔法もうまく使えないし、…男だし。誰かが仲良く盛り上がってるのって、恥ずかしい話、他人事でしかないんだ。……羨ましくて、妬ましくなってしまってね」
「分かる」

　ああ、こんな話題で意気投合できるなんて。

「…多分、余裕があるんでしょ」
「余裕？」
「心と経験の余裕。恵まれてるから人に優しくできて、優しくするから更に好かれる。私には無理」
「……好きな人、というのを仮想で作ってみるのはどうだ？」
「無理無理。……あなたには居るの？」

　言うと、少し赤い顔をされる。ああ、いるんだ。……幸せそうで、いいな。そう思っている私の目の前、ふと彼の顔が陰る。

「…相手にされてないけどね。彼女は、そういったことよりも任務の方がずうっと大事なんだ」
「……立派じゃない？」
「…立派。そうだな、立派すぎるんだ」

　そう言って彼がまた酒を煽る。それ位にしないと。……この人、酒に強いなあ。
　だん、と酒瓶を振り下ろしても、まだその顔には酔いが回り切っていない。酔えない辛さが滲み出ている。

「僕はもっと、普通に雑談とかしたい。……友情も、恋愛も、家族も、全て求めていてはうまくいかないの、わかっているんだが」
「…そうねえ」

　私はそうなるのが怖くて、人に恋が出来ない。人に理想を抱きすぎていつか壊れる日が来るのが怖いのだ。

「……顔は、少し君に似ているかな。……でも、性格は君の方が人間くさいけど……」
「それって……褒めてる？…………寝ちゃった」

　彼の好きな人とは、どんな人だろう。

　何故か、暫くぶりに、興味が湧いてしまって。
　彼の猫のような黒髪を、少しだけ撫でてみたのだった。




＊＊＊





・魔族の定義は「人間より色々と強い」こと。
　生まれつきの魔物だろうが、邪神に取りつかれていようがどちらも魔族。
・人間の中から超人や異形が出たら、その子たちも魔族扱いされる。そういった先天タイプと、
　禁忌に手を出した闇の神官や邪教に手を出し邪神に取りつかれた王様といった後天タイプが居る。どちらも人間社会には溶け込めない。
・そうして人間から弾かれた人々がどうにかこうにか生き延び、今やっと繁栄し始めている所で人間たちはやっと（やばい。こいつら全力で滅ぼさなければ俺たちが滅びる）と思い始めたけれど、今更滅ぼし切るだけの力がないのでどうにかこうにか和平交渉に持ち込めないかなと思っている。
　……というのが、北の主な人々。勇者たちは暗殺者／嫌がらせ目的／本人たちが勝手に乗り込んでいるという話。西は内乱続きなので、もしかしたらその内人間が覇権を握るかも…？