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あるところに、きらいのくにがありました。
隣国のあいのくにの状況が気に食わない人々が集まりました。 何故なら、隣のあいのくには王様の為に死ねと言う考え方で、おまけに王様の望むものは全て捧げようという調子。そしてその尽くされる王様は、きらいのくにの人々にとっては酷く気に食わない気質をしていました。 きらいのくにの人々は、あいのくにに攻め込んだり、逆に攻め込まれた時殲滅したりしました。死体で作った焼肉や宝飾品は年若い血気盛んな者や、こういった呪術が好きな年寄りたちに好まれました。 さて、きらいのくにに、あいのくにに対し恨みのある若い旅人がやってきました。 きらいのくには寛容です。あいのくにの狭量な者とは違います。あの王様が嫌いと言うだけで仲間にしてあげるのです。 若い旅人は、その温かさにしばし癒されました。故郷などあってないようなものでしたし、ろくな友人も居ませんでしたから、旅人はここに定住しようかとも考えました。 何せあいのくにからやってきた侵入者に攻撃し傷を加えるだけで、仲間が増えます。友達も増えているような気がしました。 たまにやってくるスパイを露骨に傷付けたりはしませんでしたが、同時に殴られているのを助けもしませんでした。 隣のあいのくには選民思想の、宗教ーそれも邪教ーの教義に全てを捧げる馬鹿の集まりだと思っていました。 ところが、ある日のことです。 あいのくにの中の一人を見た時、旅人は戸惑いました。 引きずって広間に連れてこられたその人は、旅人のかつての師匠で、今の闘い方を教えてくれた人だったからです。 旅人は初めて侵入者を庇いました。 すると、初めは石を投げるのをやめていた人が、次第に 「お前もスパイなんだろう」 「出て行け!」 と言うようになりました。 涙がぽろりとこぼれましたが、ここにはそれを喜ぶ人しか居ません。 今まで、つい昨日までは、あいのくにへの恨み言を言ってこぼす涙は皆で混じらせ拭いあうものだった筈なのに。 敵対したつもりなどないのに、相手は勝手にこちらを敵とースパイと、認定してきます。なんという屈辱でしょうか。 旅人は、きらいのくにを去りました。 もう二度とここに訪れまいと思って。 その後、きらいのくには、あいのくにと同様、邪教の集団として認められました。 旅人をはじめ、ヒステリックに騒ぎ立てるのが苦手な人々はどんどん離れ、今やきらいのくににはあいのくにと同様選民思想と邪教の教義を信じる者しか居りません。 そして二つの国は、そこから逃げ出した人々によってつくられた交易世界に置いて行かれ、最も大きな制裁である経済制裁を受けました。 作物に偏りのあった両国は、このままでは滅びるしかありません。 二つの国は唇から血を流しながらお互いに手を取り合うことにしました。 けれど結局手を取り合っても、感情的な憎しみは消せません。 やがて両国はお互いに潰し合い、それ以外の場所に移り住んだ人々はほっと胸を撫で下ろしたのでした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2016.10.30 17:15:02
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