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長押 綴

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2016.12.23
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カテゴリ:●書
海辺の青春アドベンチャーって言うと非常にさわやかに聞こえるけどそんな甘いもんじゃねえぞ…えぐいぞ…最高…… _(´ཀ`」 ∠)_


高い所から見れば「綺麗なものは遠くにあるから綺麗なの」である、海。

近くに寄れば流れ着くどろどろした海藻、潮の満ち引きによって迫る死と暗さと冷たさ、
そういった汚いものや苦しい恐ろしい部分も叩き付け、それでも主人公が共存して色々な意味でたくましくなっていく所ー泥臭くてけれどどこか爽やかな、また空しい部分も人情も含まれている不思議な読後感が非常に心地よかったです。

おおまかなあらすじとしては、犬連れの戦災孤児が海辺ホームレス暮らしを続ける話なのですが
この主人公が非常に良い。生きていくための不幸語り、嘘や涙を頼りながらも人情への愛着を抱いているハリー・バグリー12歳のしたたかさとピュアさの波状攻撃に私は耐えられませんでした。ハリー…たまらん。

己の欠点・不幸を力に変えることもあれば、

「最悪なのは、嘘をつかなければならないことだった。兵隊たちはパパ、ママ、妹のことをたずねる。ぞっとするその瞬間、家族がみな生き返ってくる。今三人は浜辺の小さな家にいて、前とは違う事をしている。兵舎に行く道々、ハリーは、家族が今何をやってるのか決めていった。」

それを隠して楽しさや辛い中での安息を語ることもある。
この一文を読んで、私は読むことに決めました。

毎日少しずつ自分と相棒を補強しながら、食べられる時は存分に、けれど「つてを失わないように」ある程度の品は保ちながら食べるそのガッツも素晴らしい。そして小さくてぼろいけれど、確かに彼の城である根城へ帰っていく。

独り立ちしきれない私のような存在からすれば非常にかっこよく見えます。
そして、独り立ちした経験のある人からすればどこか懐かしく、愛おしく、主人公ハリーとともに自分に「GJ」と言いたくなる話ではないかと思います。

この主人公の強かさと、同様に焼け出された犬への執着、戦時中の価値観とブラックユーモア、道すがら出会う「どこか普通の生活では馴染めない人」との心の繋がり、普通の生活をする人への羨ましさとちょっとした見下し、海という名の圧倒的強者との喧嘩友達感。そしてたまに垣間見える家族への思慕が、浅瀬では笑わせ、深みでは鬱みを感じさせてくれます。

正直に言わせてもらうと、こうした少し古い本って、そのころの感性とそりがあわなかったり逆に堅すぎたりして読みにくい印象を受けることが多いのですがこちらはそうしたことはなく、昨今のラノベからハイテンションを抜きつつフェチズムをなかなかに刺激してくれる、色々な理由(属性)によって独り暮らししている大人たちとの出会いとか、大人は涙で落とすものと全面的に信頼してないのにいざ信頼するとなったら線を超えないぎりぎりの所で踏みとどまりつつ大事にするところとか、ww2ネタとか┌(┌^o^)┐ホモォ...への接し方とかを的確な濃度で放ってくれるあたり(この作者さんできるな…)と思うほかありませんでした。

何度<<ふぐぅっ…>>って吐血しそうになったか数えきれないよ。
某所で赤ずきんチャチャのセラどろが「早すぎたヤンデレ×ツンデレ」勝手に改造の羽美ちゃんが「早すぎたヤンデレ」って呼ばれてるのを見かけたのですが、こちらは「早すぎるしたたか萌え」というところでしょうか。

個人的に特に好きなワード

・パパはいつも嘘を吐くなって言ってた。それに泣くなんて赤んぼのすることだ。
 だけど、嘘と、涙だけがいまのところ役に立ってるんだ。

・だが、老人は、もう十分苦しんでいる。そして、いまはようやく少し幸せな気持ちになっているのだ。自分の苦しみをぶちまけて、この人の幸せをめちゃめちゃにすることはできない。

・飛行機が来るかもしれない。ぼくと犬の上に爆弾をおとすかも。いや、それならそれで、いろんなことがかたづいていいのかも。

・「どんなものでも、何かの役に立つぞ、ハリー。死んだ魚は、もうその体はいらない。
カモメが見つければ役に立つ。船が戦争に遭うのはひどいことだが、浜辺に流れ着いたら
たきぎになるし、おれにはいいことだ。」

・いまは、からっぽのトーチカと、一日の記憶しかない。あんなに楽しく過ごした後なのに、
 どうしてこうみじめなのだろう?

・「連絡してくれよ!元気でやってると知らせてくれ」
 アーチーの一週間分の給料より多い。煙草をどうやって買うのだろう?

・三人の死を利用するのは悪いことだよね?でも僕は生き続けなければならないんだ。三人もきっとそれを望んでる。

・クリーヴさんは、いまや、どっぷり首まで僕の味方だ。

・「羊飼いは、子羊が親を亡くしたらどうすると思う?……死んだ子羊の皮をはいで、生きている子羊の体に巻き付け、子供を亡くした雌羊の所につれてゆくんだ」

・大人がへたばってるとき、助けてやって、元気にしてやるのは誰だ。元気になるとすぐ威張るんだ。

・「好きなようにできる人間なんか、いないんだ」

 「おとなになったって」

・自分でみつけた、つくった王国

・これからさき、どんなに長い間、本心を見せずにすごさなければならないか



生きることへの執着と、面倒さと、周囲の人々との繋がりと、解放された自由さと……もろもろを込めた愛がそこにはあります。
したたかなのに、周囲を利用しなければ生き残れないと思っているのに、ちょろちょろ優しさ、甘さが出てきたり優しくしてくれた人に胸が詰まったりとかしてるのがもう本当に可愛くてたまらない。子供である自分を利用することもあれば、子供だからこその不甲斐なさを実感したりもする。中に子供を経験した大人が入ってる感はちょっとある異様な大人びた感じが逆にフェチズムを感じる。たまらん。

またラストの少々、いやかなりビターな終わり方で
「綺麗な ものは遠くに あるから 綺麗なの~」
がまた頭を過ったけど、それでも、それだけ強く大きくなった彼ならば、いつの日か対等に、大人として彼らと対面することができると思う。
そして、自分で稼いだお金で3ポンド+αを返しに行ったり、あの人に空いた子供の形をした穴を埋めに行ったり、浜住みのあの人の煙を眺めたり…来た道をもう一度辿っていくのかもしれない。
少し老いたドンと一緒に。





1994年出版の本だし表向きは普通の青春アドベンチャーストーリーなので大抵の図書館には置いてあるかと思います。読書感想文に指定された場合もあるとか。指定した人に「貴様子供に何てものを…!よくやった!!!!!」と言いたい気持ちでいっぱいです。

読んだことない方は是非是非読んでみて下さい。

【中古】海辺の王国 / ロバート・ウェストール​​​
中古しかないorz
最後に一言。

ハリー…  たまらんね。

※腐女子のつづ井さん(作・つづ井先生)より

こんな読みやすいのにフェチズムガンガンに刺激してくるなんてウェストール先生の他作品も読みたくなるに決まってるじゃないですか
しかも最初の紹介文で「※この本は地理の本ではありません」って謎の思いやり発揮してくれるとか惚れるわ。
検索してみると宮崎駿監督も大絶賛している作家の方なんだとか。確かにユニークで清涼さもあるけどダークな所もあるのって宮崎駿先生のオリジナルアニメを彷彿とするかもしれない。

次は「かかし」か「猫の帰還」か「弟の戦争」どれを先に読もうかな…。








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最終更新日  2016.12.23 22:17:03
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