ある女の話:カリナ90<葬式1>
今日の日記(「ブラッディ・マンデイ」「左目探偵EYE」感想☆と最近気になる嵐くん♪ ) 「ある女の話:カリナ90(葬式1)」赤木くんのお通夜は、冷たい雨が降った。帰って来たノボルの黒いスーツに塩をかける。「ネクタイが白なら結婚式なのにな…」はずした黒いネクタイを見ながら、ノボルがつぶやいた。明日の告別式で、ノボルは弔辞を述べることになっていた。お風呂から出ると、手帳に原稿らしき文を書いていた。私も、お通夜に行きたかったけど、まだ一ヶ月のマナを連れて、雨の中の葬式は難しいだろうと言うことで、行くことができなかった。話を何となく聞くこともできない。多分、ノボルが一番悲しんでいるのだろうから。テレビドラマを観ながら母乳を飲ませてゲップをさせると、マナは満足したのか、スウスウ眠り始めた。私は頃合を見て、マナを布団の上に置いた。コレに失敗すると、またマナが起きて泣き出し、あやすのに時間がかかることがわかっていたので、かなり慎重に。ノボルは書いていたペンを止めて立ち上がった。ティッシュを取ると、目を拭いて、鼻をかんだ。私が見ていたのに気付くと、「ごめん…」って、軽く笑いながら言った。私は、ううん、って、首を振った。「大丈夫?」「うん…。何を話していいのか、何から話せばいいのか、わからなくてね。こんなこと、あるんだな…って思って。こんな大事な役目をするなんて思わなかったし…。何か、書いても書いても、アイツのこと、うまく話せないような気がして…。こんなんでいいのかもわからないし…。」「うん…。」「書いてるとさ…いろいろ思い出すんだよ。ついこの前まで、いっしょに遊んでたじゃん?僕はさ…バカだったと思って…。ウザったがられても、もう少し顔を見に行けば良かったって。今でも頭に残ってるんだよ…。アイツが…来てくれたんだ?、って言ったこと。僕のこと気にしててくれたんだよ…。なのに…」私がノボルの手を取ると、ノボルは私にもたれるように、ゆるく抱きしめてきた。まるで、何かにすがらないと立ってられないようだった。「アイツさ、苦しそうだったんだ。チューブで繋がれてて、もう、意識なんか、あるんだか無いんだか、目を開けてもすぐに眠るような感じで。だからさ、死んだって聞いた時には、もうあんなに苦しまなくていいんだって、僕はホッとしたんだよ。あんなに苦しそうにしてたから…やっと楽になれたんだ、って…。でも、でも…治るって…思ってたんだ…死ぬなんて…信じたくなかったんだ…今だって、死んだなんて思えないんだよ…。」ノボルが肩越しに泣いているのがわかる。私もノボルの腰に手を回して、壊れないように抱きしめた。しばらくそうして抱きしめていると、ノボルが体を離した。ティッシュを数枚取って、私に渡して、自分の涙も拭った。私も泣いてた。お通夜にも行きたかった。病院にも行きたかった。写真じゃなくて、マナのこと見せてあげたかった。治らないなんて、思わなかった。人の死がこんなに突然だなんて、思ったことも無かった。死は年功序列なんじゃないかって、心のどこかで思ってた。どんなにニュースで毎日、人が亡くなったって聞いても、親が誰かが亡くなったって言っていても、それはどこか遠くのことで、自分に近い人のことじゃ無いと思っていた。心のどこかでそう思っていた。だから…現実感が無いの。ノボルから聞いた赤木くんの死が。全く現実感が無いの。どこかで生きてるような気がするの。ノボルは生きてる。温かい体温のぬくもりを感じる。それが当たり前のことじゃなく感じる。その時、私の携帯が鳴った。ノボルが、取っていいよ、って表情をしたので、私は慌てて電話に出た。「カリナ、夜遅くにごめんね。今大丈夫?」「あ、マッシー?うん。」「お通夜、アオヤン帰ってきてる?」「うん。」「それなら良かった。何か心配になっちゃって。」「え?どして?」「何て言うか…アオヤン、変にテンションが高かったって言うか、楽しかった話を懸命にして、みんなを笑わせてたって言うか…。でも、目が遠くを見てるような。現実を受け入れてないような気がして、ちょっと心配だったんだよね。」マッシーの話に頷きながら、私は何となく怖くなった。ノボルがマナの側に行ったので、聞こえないように、部屋を移動した。「ねえ、マッシー…私、告別式出ようと思う。マッシー行く?」「え?あ、うん。私は一人でも行くつもりでいたけど…大丈夫?」「うん。ノボルのことも気になるし。でも、ノボルが悲しむの、邪魔になっちゃいけないし、マナが気になるから、ちょっとだけお焼香して帰るね。車で行く。」「わかった。いっしょにいよう。私もすぐ帰るつもりでいたから。」「うん。」死んでしまった赤木くんよりも、生まれたばかりのマナのことを考えるべきなんだろうか?赤木くんは、夫の親友で、私の友達じゃないのかもしれない。でも、私にとっても、彼はいっしょに自分達と今までを過ごしてきた、大切な人だったことに間違い無い。だから、もうこれが最期だと思うと、無茶をせずには、いられなかった…。でも、人との別れは死だけじゃないのかもしれない。いつだって、人との別れは突然なんだと思う。後になって初めて、あれが最後に会った時だったんだな…って思う。ずっと、ずっと会えると思っていたのに。ねえ、マッシー、そう思わない?「いっしょにいようね。」私もそう言って、電話を切った。前の話を読む続きはまた明日目次